1月29日

マイケル・ランディ&クリス・オフィリ

 

先週紹介した展覧会のなかから、まずはYBA系二名、マイケル・ランディとクリス・オフィリの展示を観てきました。下はそれぞれのクイック・レポート。

Michael Landy:Art Bin @ South London Gallery
バブル崩壊の後はアート破壊か。またもや必見の展示が始まった。ロンドン南東ペッカム・ロードに面するサウス・ロンドン・ギャラリーに入ると、いきなりマンモス級の「ゴミ箱」に遭遇。容積にして600立方メートル、猛獣の檻のようにがっしりとした鉄筋の容器が床一面を占拠し、白手袋をしたスタッフがごみ箱の縁から美術品を放り投げていく。「ダーン!」という炸裂音とともに、キャンバスの背中がぼっきりと折れ、辺りから拍手と歓声が湧き上がる。

破壊の王者ことマイケル・ランディ《Art Bin》の中には、昨晩のオープニング開始の時点で、既に30点ほどの「ゴミ」が散在。そのなかには、デミアン・ハーストのダイヤモンド・スカルのプリントなどお馴染みの作品もあったが、これらはみな作家やコレクター自身から寄せられたもの。ギャラリーのウェブサイトを通じて廃棄を申し込める仕組みになっている。「インベストメント」を合言葉に、猫も杓子も買いまくったアート。有名美大名を担保に売りまくられたアート。不要あるいは駄作、売れ残りの美術品をお持ちの方は、この際にご利用してみては如何か。捨てることに変わりはないが、ランディのゴミ箱アートの素材になれる。お持ちでない方は、アートの死をとくと鑑賞しましょう。3月14日まで。

 


Michael Landy: Art Bin展の展示風景から
Photo: Toyoko Ito

Chris Ofili @ Tate Britain
象のフンを仕上げに使ったアフロポップな絵画で知られるクリス・オフィリの絵画展が、テート・ブリテンにて開始。4個も5個も気前よくフンをつけた初期のアブストラクトな作品から、《No Woman, No Cry》や《The Holy Virgin Mary》などのターナー賞受賞の頃の作品、最後の晩餐の構成をとる絵画13枚仕立てのオフィリ版チャペル《The Upper Room》など、大作という大作が勢ぞろいしている。

また、オフィリがトリニダード島に移住した2005年以降の近作も多く、環境の仕業か、スタイルの豹変ぶりが見どころ。特に圧巻なのが、玉虫色に怪しく光る濃紺て描かれた《Blue Rider》シリーズで、目が慣れるにつれて黒っぽい背景から絵柄が浮き上がってくる微妙な色使いがなんとも素晴らしい。YBA世代の作家は絵が描けぬことで有名だが、オフィリは例外。モチーフがいかに軽かろうが、あの超微細な筆さばきと格別な色彩感覚は、天賦の才能の証。上のゴミ箱に入れてはならぬ傑作だ。会場はテート「ブリテン」の方。目印は空に翻るアフリカンカラーのユニオンジャック。5月16日まで。

 
Chris Ofili展の展示風景から
Photo: Toyoko Ito


  

1月21日

展覧会ハイライト

 

一月も早くも下旬。年明けから続いた雪もひと段落し、毎年恒例の冬のアートフェア「London Art Fair」も先週末に終わり、新たな展示と共にアート業界が活気づいてきました。最近届いたリリースの中からこれから春にかけての展覧会ハイライトを紹介したいと思います。

依然として根強い人気を誇っているのが、アジアン・パワーというかインド周辺。V&Aのマハラジャ展が先週末に終わったばかりですが、今後もあの類が目白押し。

その筆頭が、今日から始まるインド、パキスタン、バングラディッシュの写真史150年に焦点を当てたホワイトチャペルの写真展「Where Three Dreams Cross」。ロンドンではこれまで、アジアに焦点を置いたまともな写真展が皆無に等しかっただけに、この展示は見逃せません。

また、同じくインドが焦点といえば、来週から始まるサーチ・ギャラリーのアジア・フォーカス第二弾「The Empire Strikes Back」展(1月29日〜)と、16世紀から19世紀のインドの肖像画を紹介するナショナル・ポートレート・ギャラリーの絵画展(3月11日〜)も、注目の大型企画。まとめて見れば、古典・現代さらには写真とかなりバランスよくインドのアートを吸収できそう。

一方、YBAことブリット・アートの周辺では、来週から始まるテート・ブリテンクリス・オフィリ展(1月27日〜)と、サウス・ロンドン・ギャラリー(SLG)マイケル・ランディ展(1月29日〜)、2月中旬から始まるICAビリー・チャイルディッシュ展(2月17日〜)あたりが話題を呼びそうな感じ。

そのなかでも特に注目したいのが、2001年のアート・エンジェルの企画で所持品を一切合財システマティックに廃棄したマイケル・ランディの展示。今回のSLGでの個展「Art Bin」でも似たような路線がとられるようで、要らない美術品を一般から募集し、会場が美術品のゴミ捨て場になるという(SLGのサイトで既に作品の募集が始まっています)。また、トレイシー・エミンの元彼かつ初期の影響者で、一部の層でカルト的な人気を誇るマルチタレントのビリー・チャイルディッシュの個展も、その存在が影に包まれていて不明なだけに興味津々。

また、これらの展示と並んで外せないのが、ここ数年人気の「アート寄りのデザイン」系の展示。これまで美術館で紹介されるデザイナーというとファッション系が多かったが、ここ最近のトレンドはプロダクト系やグラフィック系。

このトレンドのいい例が、現在サーペンタイン・ギャラリーで開催中のコンスタンチン・グルチッチ企画の「Design Real」展や、同じくいまホーンチ・オブ・ヴェニソンで展示中のスチュアート・ヘイガースあたりになるが、2月中旬からバービカン・アート・ギャラリーで始まるロン・アラッド展(2月18日〜)も気になるところ。出世作となった81年の「Rover Chair」から最近のステンレス製の卓球台まで過去30年に渡る作品が展示されるとか。

また、デザインにおいては遅れをとっているあのテート・モダンでも、時代はかなり昔になるが、「デ・ステイル」の創設者のテオ・ファン・ドゥースブルグ展(2月4日〜)を開催。これが元でモンドリアンと破局になったといわれる定番の斜めラインの抽象画からストラスブルグの「Cafe Aubette」用のデザインまで、幅広い作品が紹介される。

さらに、4月下旬には、ロンドン初のグラフィック・デザイン・フェア「Pick Me Up: Contemporary Graphic Art Fair」(4月23日〜)がサマセット・ハウスにて開かれ、微細なペーパーカットワークで知られるロブ・ライアンのオープンスタジオなど様々なライブイベントが企画されている。

また、これらの作家の他にも、以下の大御所・大物が今から春にかけてロンドンで展示を開催:マシュー・バーニー(Sadie Coles、1月27日〜)、ウィリアム・エグルストン(Victoria Miro、先週から開始)、リチャード・ハミルトン(Serpentine Gallery、3月3日〜)、ヤニス・クーネリス(Ambika P3、4月23日〜)、エルネスト・ネト(Hayward、6月15日〜)、ヴォルフガング・ティルマンス(Serpentine、6月26日〜)。今年も忙しくなりそうな予感。(トコ)


  

12月30日

インタビュー掲載

 

画家の近藤正勝さんに取材をしました。内容は4年前に他界した與語直子さんの遺作「GRANADA」と、新しく発足した美術家支援プロジェクト「ALLOTMENT」について。今年最後のエントリーになります。こちらからどうぞ。

・・・

あっという間に今年も年末になってしまいました。しばらくお休みをしている間に、ロンドンではチャールズ・サーチが黒幕をつとめる勝ち抜き型アーティスト育成番組「School of Saatchi」が始まり、ターナー賞も金箔でドローイングを描いたリチャード・ライトに軍配が上がる形で幕を閉じました(展示はまだ続行中です)。

その間のわたくしの毎日といえば、『美術手帖』の次号特集のコーディネートと執筆+『PhotoGRAPHICA』の原稿に追われてギャラリー訪問もままならぬ毎日でしたが、それもやっと終わり、今年も気持ちよくカウントダウンを迎えられそうです。来年もどうぞよろしくお付き合いくださいませ。よいお年を!(トコ)

  

11月26日

ブログ更新

 

パリフォトについて書きました。こちらからどうぞ。

  

11月25日

ハーストの絵画展、またもや本日より開催

 

今日からホワイト・キューブで始まるデミアン・ハーストの個展「Nothing Matters」を一足先に見てきましたので、まずは要点のみご紹介。

会場は、ホックストン・スクウェアメイソンズ・ヤードの両方の展示室。展示品は、現在ウォレスコレクションで開催中の《No Love Lost》と同じ「自分で描いた」絵画のみですが、今回の作品の方がより近作で大作。烏(カラス)、血、出刃包丁、肉片、洒落頭、椅子、水玉など、ハースト定番のモチーフがフランシス・ベーコン風の空間のなかにアレンジされている点はウォレスの作品と同じですが、色彩、構図、ストーリー展開すべてにおいて複雑で大胆。

 
Damien Hirst「Nothing Matters」展から《Insomnia》2008の一部
Photo: Toyoko Ito

烏の羽から血がほとばしるホックストンの展示室の絵画は、ハ−ストのホルマリン漬けを平面化したようなバイオレンスと清涼感が混在した作品。一方、メイソンズ・ヤード地下展示室の作品は、ベーコンかと見間違うような狂気の三連画の世界(ハーストのベーコン狂は有名ですが、ここまで真似なくてもよいのではと思うほど似ています)。さらに上の階には、「青の時代」調に描かれた男性のポートレート。噂によるとモデルの正体は、昨年3月に自殺をしたハーストの友人で美術家のアンガス・フェアハ−ストだとか。ホルマリン漬けがなくても、ハーストの宿敵である「死」が至るところ見え隠れする陰鬱な展示になっています。詳しくはこちらで。(トコ)

  

11月24日

フォト・ギャラリー掲載

 

「売春地帯」出現で話題沸騰の、ナショナル・ギャラリーのキーンホルツ展のフォトギャラリーを掲載しました。

  

11月13日

フォト・ギャラリー掲載

 

フリーズ・アートフェアのフォト・ギャラリー第二弾を載せました。今度は「Zoo 2009」です。フェアのレポートはこれで終了です。

  

11月13日

ブログを始めました

 

「フォグレスもままならないのにブログ?」って感じですが、『ART iT』の公式ブロガーになりましたので、よろしくどうぞ。ブログへはこちらから。

  

11月8日

フォト・ギャラリー掲載

 

フリーズ・アートフェアのフォト・ギャラリーを載せました。ロンドン最大の国際アートフェアが終わって早3週間。既に遠い過去のような気がしていますが、今年の記録としてハイライトのみ掲載しました。

  

11月8日

今週のログ&ニュース

 

■ アッシュモリアン博物館、改築オープン
オックスフォードにある英国最古の博物館アッシュモリアンが、61ミリオンポンドの改築工事を終えて一般に姿をお披露目。詳しくはこちらで。

■ バンクシーのグラフィティ、汚される
バンクシーの「パンクな」グラフィティを残すかどうか住民投票が実施されたロンドン南東の町べディントンで、開票作業が終わらぬうちに壁画が汚されるという事件が発生。250名の投票者中93%強が「グラフィティを残すべき」の方に投票していたという。詳しくはこちらで。

■ 美術家を支援するトラベル・アワード設立
制作旅行にかかる費用20万円を受賞者1名に授与するトラベルア・アワードが、美術家有志によるプロジェクト「Allotment」により設立された。この「Allotment」という企画は、ロンドンで若き美術家として活動をしていたが、4年前に交通事故で他界した與語直子さんの活動を振り返るために発足したもの。その活動の第一歩となるのが、このトラベル・アワードになる。応募対象者は25歳から40歳までの若手アーティスト(学生は不可)。受付の締切りは2010年1月15日(金)。詳しくはこちらで。

トラベル・アワードの設立と並行して、與語さんの追悼展「與語直子 / グラナダ」が今年12月にロンドン、来年2月に東京で開かれる。

ロンドン展、12月3日より
CHELSEA FUTURESPACEにて
東京展、2010年2月27日より
KANDADAにて

■ サム・テイラー=ウッド、19歳の俳優と婚約
昨年9月にホワイト・キューブのオーナー、ジェイ・ジョップリンと離婚した美術家のサム・テイラー=ウッドが、22歳年下の新人俳優と婚約したとBBCが報道。お相手のアーロン・ジョンソンは、ジョン・レノンの若き頃を描いた、サムの待望の処女長編映画『Nowhere Boy』でレノン役を熱演した男優。二人の出会いは、この役用に設けられたオーディションだったという話。 離婚後リリー・アレンと噂になったジェイといい、サムの今回の婚約話といい、この元カップルは話題が超豊富。ちなみに『Nowhere Boy』のロンドン公開は12月26日とのこと。詳しくはこちらで。

■ ポートレート写真賞、受賞者発表
ナショナル・ポートレート・ギャラリーが主催するテイラー・ウェッシング・ポートレート写真賞(Taylor Wessing Photographic Portrait Prize)の今年の受賞者が、47歳の男性写真家ポール・フロイド・ブレイク(Paul Floyd Blake)さんと発表になった。受賞作品は水泳をする13歳の少女を撮ったもの。この作品は、2012年のオリンピック出場に向けて練習にはげむ若者たちを撮ったブレイクさんの「On Track for 2012」プロジェクトに属す一作。受賞作とノミネート作の展示は2010年2月14日まで。 詳しくはこちらで。こちらでブレイクさんの作品が見れます。

■ ドイツ・ボーズ写真賞、ノミネート者発表
こちらは毎年恒例のロンドンのフォトグラファーズ・ギャラリー主催の写真賞。今年のノミネート者が以下の通り発表になった。

〇アナ・フォックス(Anna Fox, '61年英国生まれ)
〇ゾーエ・レオナルド( Zoe Leonard, '61年米国生まれ)
〇ソフィ・リステルユベール(Sophie Ristelhueber, '49年フランス生まれ)
〇ドノヴァン・ライリー(Donovan Wylie, '71年英国生まれ)

2010年2月11日から同ギャラリーにてノミネート者の作品展がはじまる。受賞者の発表は3月。 詳しくはこちらで。(以上トコ)

  

11月8日

余談…

 

■ 『装苑』12月号に、写真家ランキンに取材したインタビュー記事が載りました。

■ 芸術新潮11月号に、大英博物館の「The Power of Dogu」展のレビューが載りました。

  

10月31日

レビュー掲載

 

デミアン・ハースト展のレビューを載せました。

  

10月14日

デミアン・ハースト、待望の絵画展スタート

 

デミアン・ハーストの待望の個展「No Love Lost」がウェストエンドのウォレス・コレクションで始まった。ハーストの個展がロンドンで開かれるのは、ワンマン・オークションで1億1100万ポンド(当時210億円)という前代未聞の数字をはじいた去年9月のロンドン・サザビーズでの展示以来。今回の作品は「The Blue Paintings」と呼ばれる新作絵画シリーズ25点。骸骨、灰皿、水玉などの定番モチーフにフランシス・ベーコン調のライン使いあり。詳しくはまたあとで。ギャラリーのサイトはこちら

 
Photo: Toyoko Ito


  

10月13日

テート・モダンにモノリス出現?

 

フォト・ギャラリーを載せました。


  

10月7日

アートフェア

 

今年のラインナップは以下の通り。

■ Art London 10月8日〜12日
現代というよりは昔杵柄を取った渋い作家が並ぶアートフェア。絵画中心。詳細はこちらで。

■ Free Art Fair 10月12日〜18日
その名の通り全品タダのアートフェア。三回目の今年は格が上がってバービカン・センターで開催。目玉はマルレーネ・デュマス。 今年で最後という噂がある。詳細はこちらで。

■ Pavilion of Art and Design London 10月14日〜18日
去年までDesignArt Londonと呼ばれていたフェアが名前を改めて再びロンドンに登場。場所はウェストエンドのBerkeley Square。詳細はこちらで。

■ Frieze Art Fair 10月15日〜18日
ロンドンアートフェアのオートクチュール。今年のハイライトはマーティン・クリードの特別パフォーマンス。ライアン・ガンダーやモニカ・ソスノヴスカら作家7名のコミッションワークや、今年のターナー賞ノミネート者ロジャー・ハイロンズらのトークも注目。詳細はこちらで。

■ Zoo Art Fair 10月16日〜19日
今年から場所が変わってイーストエンドのショーディッチで開催。若手ギャラリーや個人の作家が参加。詳細はこちらで。

■ Affordable Art Fair 10月22日〜25日
3000ポンド以下のふところにやさしいフェア。詳細はこちらで。

 

  

10月6日

フォト・ギャラリー掲載

 「ターナー賞2009」のフォト・ギャラリーを掲載しました。こちらからどうぞ。

 

  

10月4日

今週のログ&ニュース

 

■ Anish Kapoor @ Royal Academy
アニッシュ・カプーアの待望の個展がロイヤル・アカデミーで開幕。おそらくこの秋一番の話題展。久々にfogless用にレビューを書いたので、こちらからどうぞ。展示をゆっくり見る時間のない方、葡萄を巨大にしたような中庭のステンレス彫刻だけでも見ごたえたっぷりです。

 
Anish Kapoor
Tall Tree and the Eye
2009, detail
ロイヤル・アカデミー中庭で展示中の巨大ステンレス彫刻。
Photo: Toyoko Ito

 

Pop Life展 @ Tate
Modern
今月1日から始まったこちらの展示も必見。公開前日に、リチャード・プリンス作のブルック・シールズの幼年ヌード写真が警察の介入により展示中止、カタログも販売中止になるなど、早くも話題沸騰。出品作家は、ジェフ・クーンズ、デミアン・ハースト、村上隆ら、メディアを上手に使い、ビジネス目線で大規模な制作を展開する「現代のアンディ・ウォーホル」たち。キース・へリングの「Pop Shop」やクーンズの「Made in Heaven」展など、美術史に残る名展示が再現されていてダイナミック。トレイシー・エミン、ギャヴィン・タークらYBAの存在も目立ち、ハーストが17年前に発表した一卵性双生児を起用したパフォーマンスも再演されている。詳しくはこちらで。

 


Pop Life展の展示風景
上)Keith Haring
中)Jeff Koons
下)Maurizio Cattelan

Photo: Toyoko Ito


■ Gustav Metzger @
Serpentine Gallery
活動50年のベテラン作家ながらも、上のビジネスライクな作家たちとは真逆。自己PRやセレブライフ、金儲けなどに見向きもせず、左翼運動に関わり政治的メッセージの強い作品を発表してきたグスタフ・メッツガーの個展。見どころは、自ら命名した「自動破壊アート」の代名詞である62年のパフォーマンス映像(ビニールシートに酸を吹きかけてシートが溶けていく光景をビデオにおさめたもの)や、床に広げた巨大な写真を布で覆い隠し、鑑賞者がひとりずつ布の中にもぐって鑑賞する参加型の作品など。屋外には、植木が入った箱に車の排気ガスを注入したインスタレーションを設置している。詳しくはこちらで。

 
Gustav Metzger
Mobbile 1970/2009
屋外で展示中の作品。車の上の白い箱には植木が入っていて、管で排気ガスのパイプへと繋がっている。
Photo: Toyoko Ito


■ Ryan Mcginley @ Alison Jacques Gallery
ロンドンの写真家の間でいま話題になっているのが、なんと洞窟で、「洞窟の写真みましたか?」とあちこちで聞かれる。実はこれ、先月からウェストエンドのアリソン・ジャック・ギャラリーで公開中のニューヨーク写真界のスター、ライアン・マッギンレーの新作《Moonmilk》のことで、映画制作のごとく撮影隊を引き連れて、北アメリカにある洞窟を訪ねて二年がかりで撮った大作になる。私も今週になってやっと拝むことができたが、ピンクやブルーなど洞窟というイメージに似合ぬエイリアンな色合いの鍾乳洞のなかで、リンゴを食べる前のアダムとイブのように裸でたたずむ若者の姿が、なんとも現実離れしていて感動的。これは噂になって当然と納得。8日まで展示。お見逃しなく。


■ アートフェアまでいよいよ秒読み

アートフェアまで2週間を切り、にわかに活気付いてきたロンドンのアート業界。6日からテート・ブリテンで「ターナー賞」展が始まり、13日には毎年恒例のテート・モダン、タービンホールでの展示がお披露目される。また、翌14日にはウォレス・コレクションでデミアン・ハーストの新作絵画展が始まり、15日からはいよいよロンドンアート界最大のイベント、フリーズ・アートフェアが幕を開ける。今年も体力勝負になりそうな予感。(トコ)

 

  

9月27日

今週のログ&ニュース

 

帰国して2週間が経ち、生活のリズムがやっと正常化。取材や鑑賞も、少しずつスタート。

■ 芹沢高志トークショー
10月1日、Japan Foundation
国際交流基金の竹川さんと久々にメール交換。10月1日に同基金ロンドンオフィスで、アサヒアートフェスティバルの事務局長、芹沢 高志さんのトークショーがあるとの情報をキャッチ。テーマは日本の「最新」現代アート事情。ここ数年、従来の美術館主導型に比べて地域コミュニティー主導型が目立つようになった日本の大型アート・プロジェクトの実体を、横浜トリエンナーレ、別府現代芸術フェスティバルなどの企画に携わってきた氏の様々な経験からお話いただけるようだ。ロンドンで日本のアート事情について話を聞ける珍しい機会。興味のある方はお見逃しなく。6時半開始。詳しくはこちらで。

 
川俣正
「不在の競馬場」インスタレーション風景
国際現代美術展「デメーテル」(2002)
撮影:萩原美寛

 

■ Parrworld 、10月16日からBalticにて開催
ブリストルのマーティン・パー宅を、取材で再び訪問。蔵書数約8000点という書庫のなかで2時間写真集に埋もれながら、ベルギー、ドイツ、フランスと巡回してきた『Parrworld』展が、いよいよ来月16日から、ニューカースルBALTIC Centre for Contemporay Artで始まると聞く。豪華カタログが去年から出回っているこの展示は、写真家であるとともに写真集や小物のコレクターでもあるパーの関心事を徹底的に紹介する展示。ゆえに展示構成は、彼の作品とコレクションの二本立て。会場はロンドンから離れているが、英国の美術館でのパーの久々の個展。遠出する価値は十分ありそう。詳しくはこちらで。

 
Martin Parr:
Parrworld [BOX SET] (Hardcover)
Aperture社から2008年に刊行されたパーのお宝(ポストカードと小物)をまとめたカタログ。

 

■ 大英博物館(1) 国宝上陸
The Power of Dogu
雑誌社からの依頼で、この種の展示では過去最大と評判の土偶展を見に、大英博物館を訪問。建物が何しろ巨大で、迷路のようでもあり、展示室を探すのに一苦労したが(なんと4階の一番奥!)、蓋を開けてみてびっくり、みごとな名品揃い。一番人気は、お色気たっぷりの国宝「縄文のビーナス」。私のお気に入りは目がゴーグルの形をした遮光器土偶。形がなんともユニーク。詳しくはこちらで。

 
Goggle-eyed dogu-
Kamegaoka, Aomori prefecture
Final Jo-mon (1000-300 BC)
Tokyo National Museum

■ 大英博物館(2) Medals of Dishonour ブラックユーモア満点
土偶展のすぐ隣で開かれていた、名誉ならぬ不名誉を讃えるメダル展。前半は大英博物館所蔵の16世紀から20世紀のメダルの展示で、何やら堅苦しくて素通りしてしまったが、チャップマン兄弟、グレイソン・ペリーら現代作家が占める後半は、この展示用に作られた新作ばかりで見ごたえたっぷり。とくに冴えていたのが、巨匠のリチャード・ハミルトンで、イラク戦争の際のドタバタ、ハットン報告書から名を取って「Hutton Award」と題したメダルを発表。その表面に刻まれていたのは、当時の首相のトニー・ブレアとその補佐官アレステア・キャンベルの顔。みごとに不名誉なメダル。デュシャンのプラグを使って作ったメダルもお見逃しなく。詳しくはこちらで。

■ 大英博物館(3) Moctezuma 盛大にスタート
大英博物館のこの秋の一番のハイライトで、館内はこの展示のバナー広告でいっぱい(土偶展が気の毒なくらい)。モクテスマ二世という、1502年から1520年までアステカ帝国を統治した皇帝の栄華を伝える展示で、トンネルを抜けて真っ白い円形空間に出る会場のデザインがとてもいい。展示品は、重そうなゴールドのネックレス、貝をあしらった美しい絵画、細かいレリーフが施された石の祭壇や棺と、豪華でバラエティー豊か。なかでも一番面白かったのが、トルコ石のモザイクを使った仮面で、一点だけ本物の頭蓋骨を使ったものがあった(頭の背面が切り落とされていて、人が被れるようになっている)。このお面が何とも異様で、思わずデミアン・ハーストのダイヤモンド髑髏を思い出してしまったが、確かあれのインスピレーションもマヤだかアステカだかの洒落頭だったはず。詳しくはこちらで。

■ Rankin Live、 ライブシュート終了
10日ほど前にライブイベントが終わってしまったが、日本に経つ直前に取材した原稿をなぜか今頃執筆。ロンドンの方はご存知かと思うが、この「Rankin Live」というイベントは、セレブお得意の写真家ランキンが一般人を対象に、1年がかりでポートレートを大量に撮っていくプロジェクト。今年初頭から始まり、取材の時点で撮り終えてたモデルの数は400人程度だったが、今日サイトをチェックしてみたら、1404人。すごい増加率。詳しくはこちらで。 (トコ)

 

  

9月18日

何度目の復活?

 

アナウンスもせずに、長いことお休みしまして、読者の方々すみません。人生の転機が思いがけず来てしまったようで、父が他界、3年間空き屋になっていた実家をたたみに横浜に帰省していました。

伊丹十三の映画のパロディのような忙しさと、日本における拠点喪失というシンドイ現実に直面したせいか、たちの悪い風邪をひき、それが長引いてアートはすっかり頭から蒸発、40日の滞在中、ギャラリーに一歩も足を踏み入れないという、私にしては珍しい滞在になりましたが(唯一の例外が東京フォト)、リバイバル盛んだった太宰治を読みまくるなど、別の方面で充実。生涯にわたる苦悩の末に作家が到達した思想・哲学を、たったの300円たらずで共有できるなんて、純文学は現代アートに比べてなんてデモクラティックなんだろうと改めて感動。

Foglessを野放しにしている間、メールを下さった方々、お返事しなくてごめんなさい。ヴェネツアの続レポートをお待ちの方々も、お許しを(ヴェネツイアもすっかりぶっ飛んでしまいまして…)。まだアンテナの感度がかなり鈍っていますので、ゆっくりと再開したいと思います。

7月に書いた原稿が、『美術手帖』『芸術新潮』『PhotoGRAPHICA』『Vogue Hommes Japan』に載っていますので、よかったらご覧になってください。内容は順に、ジェフ・クーンズ展評、サーペンタイン・パヴィリオン評、トーマス・デマンド取材記事(ベルリンまで取材しに行きました!撮影はミュージシャンの青木孝允さん)、「ART ZOO」(動物をモチーフ・素材にしたアートを集めたビジュアル企画)になります。(トコ)

 

  

7月20日

夏を100倍楽しめるアート(2)

 

Jeppe Hein's "Appearing Rooms"@ Festival Terrace,
Southbank Centre

なんだか急に秋の陽気になってしまいましたが、夏が戻ってきてくれることを祈って第二弾。前回紹介したヘイワード・ギャラリーと同じサウスバンク・センターの敷地内、今年で4年目を迎えるイェッぺ・ハイン「Appearing Rooms」

子供に大人気のこの作品を喩えるならば、噴水造りの4DKの家。地面に敷かれた特製の台の上に立っていると、空間を四室に仕切るように水が床からドバッと舞い上がり、観客を噴水の部屋のなかにトラップしてしまう。観ているだけで夏の気分を味わえる爽快なアート。場所はサウスバンクのフェスティバル・テラス。10月23日まで開催。くわしくはこちらで。

 

 
Jeppe Hein
Apprearing Rooms
サウスバンクに設置されたイェッペ・ハインの噴水の部屋。

Photo: Toyoko Ito
  

7月19日

夏を100倍楽しめるアート(1)

 

Walking in My Mind @
Hayward Gallery

去年はジェラティンのボート場だったが、今年は草間彌生の人工ガーデン。屋上緑化促進モデルのように、ヘイワード・ギャラリーのドブネズミ色のバルコニーを緑の楽園へと変貌。そこに草間の定番である水玉模様の彫刻がポコポコと置かれた様は、まさに「不思議の国のアリス」。

夏の暑さも吹き飛ぶようなこのシュールな作品は、同ギャラリーの人気企画「Walking in My Mind」で現在公開中の作品。アーティストの心の中に広がる精神世界をご堪能いただこうという一風変わった企画で、先の草間大先生の他に、トマス・ヒルシュホルン、ピピロッティ・リスト、ジェイソン・ローズ、奈良美智、塩田千春…と、豪華な顔ぶれが揃う。胸や足など身体のパーツが宇宙を旅するリストの映像、爆弾ゲリラのアジトを再現したようなヒルシュホルンの洞窟あたりは、体感度がずば抜けてバツグン。学生時代の部屋を再現した奈良さんの小屋も、彼の表現のルーツがたっぷりと味わえて魅力的。アーティストの心の中を歩いてまわるうちに、夏の暑さが溶けてしまうパワフルな展示だ。


 


Yayoi Kusama
Dots Obsession, 2009
ヘイワード・ギャラリーの二階バルコニーで展示中の草間彌生
の人工ガーデン。
Photo: Toyoko Ito
  

7月6日

ゴームリーの台座、スタート!

 

アントニー・ゴームリーの第4の台座プロジェクト「ONE & OTHER」が本日、7月6日午前9時、ロンドンの表玄関たるトラファルガー広場にて始まった。今後100日間、24時間体制で英国全土から集まった一般人によるひとり一時間のパフォーマンスが続く。その模様をさっそく写真に撮ってきたのでこちらでどうぞ。イベントの詳細については4月24日付けの日誌をご参考に。イベントのオフィシャルサイトはこちら

 
  

7月2日

ジェフ・クーンズ、ポパイと一緒にロンドン上陸!

 

サーペン・タインギャラリーで始まったジェフ・クーンズ個展「Popepe Series」のオープニングに行ってきました。詳しくはこちらから。

 
  

6月23日

いまどきのヌード

 

ライフドローイングなんて死語かと思っていたら、ひそかに再来ブームが来ていたようだ。他人のアイデアを失敬したり、理論という名の御託を並べたり、頭でっかちな今時のアートに飽きた方は、ランチタイムの息抜きとして、アートエンジェル(Artangel)企画の無料ライフドローイング(人体写生)のクラスをお勧めする。

今日から2週間、ショーディッチ・タウンホールロンドン・グラフィックセンターチャンネル4のオフィスと毎日会場を替えて、12時から2時まで開催。ワンセッション30分。画材はすべて向こう持ちなので、行くだけでOK。ちなみに予約はできない。

会場に入ると、ローブをまとったモデルを囲んで、イーゼルが20台強。時計が正午を打ったところで、ジュディ・パーベック(Judy Purbeck)先生の声を合図に、モデルがひらりとローブを翻しポーズを開始。モンローのように腕を頭のうしろに回し、腰をクネッとよじって5分間そのまま。次のポーズも5分。床に座った最後のポーズは20分とやや長め。これで物足りなければ、次のセッションに残ることも可能だ。

この一体新しいのか古いのかわからぬ企画は、実は7月6日からチャンネル4で放送されるテレビ番組「Life Class: Today's Nude」の余興になる。普段スタジオのなかでのみ行なわれいているライフドローイングを、お茶の間に解禁しようという試みの番組になるが、普通の美術番組とは違って、昼の日中に、30分間ほぼぶっ続けでヌードモデルの映像を流し、テレビを見ている視聴者の皆さんにこれを描いてもらいましょうという趣向のもの。実はこの企画全体が美術家アラン・ケイン(Alan Kane)の作品になっている。

放送の日時は、7月6日〜10日、午後12:30〜13:00まで。番組のゲスト講師として、YBA作家のギャリー・ヒューム(Gary Hume)や美術評論家のジョン・バージャー(John Berger)などが登場する。

昼間のドローイングのクラスの方は、7月4日まで、ロンドン、グラスゴー、ブリストル、マンチェスター、サウスハンプトンの各都市で開催。描いたドローイングをflickrこちらのページにアップロードして公開できることになっている。(トコ)

Drop-in life drawing classes
An Artangel / Jerwood Commission
22 June - 4 July 2009
12-2pm
London, Glasgow, Bristol, Manchester & Southampton
www.artangel.org.uk

Alan Kane
Life Class: Today's Nude
Channel 4
6-10 July 2009
12:30pm

 

  

6月16日

ヴェネツイア・ビエンナーレ(国別展示編)

  ヴェネツイア・スペシャル第二弾として、ヴェネツイア・ビエンナーレ国別展示のレポートを載せました。急いで書いたのでちょっと粗いですが、ハイライトを押さえてあります。行かれる方、どうぞご参考に!(トコ)
  

6月11日

安藤忠雄とフランスの大富豪の大傑作!

 

ヴェネツイアから帰ってきました。炎天下のなかぶっ続けで歩き続けた7日間。ぜんぶで見た展示は60〜70個くらい。まだアタマが整理できてませんが、まずはレポート第一弾をアップしました。ビエンナーレに先駆けてフランスの大富豪フランソワ・ピノーがオープンしたギャラリー「Punta della Dogana」です。建築は日本が世界に誇る建築家、安藤忠雄。今回一番注目を集めていたギャラリーのひとつでした。ヴェネツイアに行かれる方、必見です!(トコ)

 
  

5月28日

ミケランジェロ・ピストレット 新聞玉大行進

 

犬も歩けばアートに当たる・・・。それも、今から40年も前にチューリッヒで公開された、名パフォーマンスに当たった!アルテ・ポーヴェラの巨匠ミケランジェロ・ピストレットとミニマリズムの大家ロバート・モリスの世界にご招待。右の写真をクリックくだされ。

 
  

5月23日

ハウザー&ワースがニューヨークに進出

 

ロンドンのピカデリーに4階建てのスペースをもつ画廊ハウザー&ワース(Hauser & Wirth)が、リーマン・ショック以降の不況にもかかわらず、ニューヨークに進出することを発表。マンハッタン東69丁目32番地に、4階建てのスペースをオープンする。

改築を経て9月にお目見えする新スペースは、戦後のアメリカを代表する画商、マーサ・ジャクソンが50〜60年代に拠点を置いていた米国美術界ゆかりの建物。現在は、ハウザー&ワースの片翼イワン・ワースが、ニューヨークのディーラーのデイヴィッド・ズワィナーと共同で運営する「Zwirner & Wirth」の展示スペースとして使われている。

 
ハウザー&ワース、
ロンドン・ピカデリー店の正面玄関。

そのニューヨーク店のオープニングを飾るのが、「ハプニング」の創始者、アラン・カプロー(Allan Kaprow)の61年の名作《YARD》。画廊内に大量のタイヤを敷き詰めたこの作品は、来場者がその上を歩き回われる参加型アートの先駆であるだけでなく、この同じ建物で初公開された記念すべき作品になる。

チューリッヒに本店を持ち、ロンドン二箇所にスペースを構えるハウザー&ワースは、ば欧州におけるガゴージアンと呼ぶに相応しい存在。ポール・マッカーシー、マーティン・クリード、ロニ・ホーンなど世界のトップアーティストを数多く抱え、質の高い展示をたくさん催してきた。

そのなかでも2006年にイーストエンドのブリック・レーンに開いた臨時スペース「Coppermill」は、ディーター・ローと展をはじめ、あのサーチ・ギャラリーに匹敵するグラマーかつバブリーな展示で、数々の話題をまいた。(残念ながら、地元の宅地計画で2007年にクローズされてしまったが・・・)

ハウザー&ワースの今回のニューヨーク進出は、ガゴージアン、ホーンチ・オブ・ヴェニソン、イヴォン・ランベールらに次ぐ、世界のトップ画廊によるグローバルなビジネス展開への参戦とみなすことができるだろう。

でも、その一方で、この春にロイヤル・アカデミーの敷地内に入ったホーンチ・オブ・ヴェニソン同様、トップ画廊における美術教育を兼ねた公的なビジネス展開の更なる例とも受け止められる。その証拠に、この《YARD》展では、ハーバード大学美術館の近現代部門のヘッドを含む職員3名がキュレーションを担当することになっている。

さて、話は前に戻って、東69丁目32番地の建物に現在入っている「Zwirner & Wirth」の今後の行方だが、 発表によるとチェルシーに拠点を移し、「Zwirner」と名をシンプルに改めて活動をするそうだ。事実上のコラボの終結かな…?詳しくはこちらで。(トコ)

余談・・・今年もヴェネツイア・ビエンナーレのヴェルニサージュに出席することになりました。いま各種イベントのリサーチでてんてこ舞いですが、フォグレスでもレポートをするつもりなのでお楽しみに!


  

5月18日

ターナー賞2009ノミネート者発表

 

しばらく日本に戻っている間に、ターナー賞のノミネート者が発表になっていました。今年の顔ぶれは、フォグレスでも御馴染みのロジャー・ヒオンズ(Roger Hiorns)を筆頭に、エンリコ・デイヴィッド(Enrico David)ルーシー・スケア(Lucy Skaer)リチャード・ライト(Richard Wright)の4名。ロンドン、グラスゴー在住がそれぞれ2名ずつと、両都市の対決といった構図になっているのが特徴。

1975年生まれ、1996年にゴールドスミス・カレッジ(BA)を卒業したロジャー・ヒオンズは、去年秋に話題になったアートエンジェル企画のインスタレーション「Seisure」と彼の画廊コルヴィ・モーラでの個展が評価されてのノミネート。まだ記憶に新しいので覚えている方も多いかと思うが、ヒオンズはあの作品で、硫酸銅の結晶という意外な素材を用いて、サウスロンドンにある集合住宅の一戸を蒼い鍾乳洞のような空間へと変貌。去年最も目立った作品だったのでノミネートは当然といえば当然。

 
Roger Hirons
アートエンジェル企画のロジャー・ヒオンズの展示「Seisure」から

1966年生まれ、1994年セントラル・セント・マーティンズ卒業のエンリコ・デイヴィッドは、前回のテート・トリエンナーレや国内巡回展「ブリティッシュ・アートショウ2006」への出品など、ここ十年ほど着実にキャリアを積み上げてきた作家のひとり。だいぶ前になるがサーチ・ギャラリーの2001年の企画展「New Labour」で公開されたキャンバスに刺繍をした作品や、2007年のICAでの個展で披露された舞台セット風のインスタレーションなど、アートとクラフトとデザインを融合した独特な作風に定評がある。

1975年生まれのルーシー・スケアは、ここ数年、英国の現代アートを牽引しているグラスゴー・スクール・オブ・アートの卒業生。前回のヴェネツイア・ビエンナーレではスコットランド館の代表を務めている。ルポルタージュ系の雑誌で見つけたイメージを発想源に、おそろしく微細なドローイングや家具のような立体をつくっている。稀に介入型の作品をつくることもあり、2003年のベックス・フューチャーズ賞にノミネートされた時には、ロンドンの中央刑事裁判所(オールドベイリー)で、蝶の蛹を成虫へと羽化させるプロジェクトをこっそりと行なっていたりする。

最後の作家リチャード・ライトもグラスゴー在住、ルーシー・スケアと同じグラスゴー・スクール・オブ・アートの出身。1960年生まれなので、50歳以下というターナー賞の資格ギリギリのところで選ばれた今年一番の年長。代表的な作品は、天井や壁など、それも部屋の目立たないところに直にさりげなく描いたパターンメイキングのようなペインティング。第55回カーネギー・インターナショナルでの展示と、エジンバラのイングルビー・ギャラリーでの個展が評価されて今回のノミネートとなったようだ。

ノミネート者4名を紹介する作品展はまだだいぶ先、10月7日からテート・ブリテンにて公開。詳しくはテートのサイトで。(トコ)

余談・・・約一ヶ月半ぶりのロンドンからの書き込み。初夏を期待して戻ってきたら、まだ冬物のジャケットを着ている人がちらほら。さすがロンドン(笑)。今回の帰国は、うちも例外にもれず、親の介護問題やら何やら心の重いタスクが山済みで、残念ながらギャラリー廻りはおあずけ。まともに見たのは、ロンドン在住の作家、澤柳英行さんのラディウム・レントゲンヴェルケでの個展くらいでしたが、これは浅草橋まで足を運んでみて正解。澤柳さんの作品は、職人わざのような細かさで穴を開けた金属板を天井から吊るした「モビール」のような作品ですが、スカルプチャーの立体としての美しさと、それが壁に落とす影のイメージとしての美しさが、効果的な照明によって表裏一体となって存在し、とても見ごたえのある展示でした。おすすめです。


  

4月28日

リチャード・プリンス著作権問題でドタバタ?

 

リチャード・プリンスといえば、ジェフ・クーンズと並びウォーホルの後継者とばかりに高名なアメリカの美術家。ここロンドンでも去年、サーペンタイン・ギャラリーで盛大な個展が開かれたばかりだが、そんな大御所が著作権侵害で訴えられるという不名誉なトラブルに直面している。渦中にあるプリンスと彼の画廊ガゴージアンの弁護士の言い分をまとめた記事がThe Art Newspaperに掲載されているので、まずそれを読んでいただきたい。

………

この訴えの対象となっているのが、プリンスがガゴージアン・ニューヨーク店で昨年11月に発表した「Canal Zone」という22点からなるコラージュ形式の絵画シリーズ。これらの絵画に、フランスの写真家パトリック・キャリオウ(Patrick Cariou)の写真集「Yes Rasta」(2000、Rizzoli)からの作品30点が無断で使用されていたようで、シリーズ全点の廃棄処分などを求める要求が写真家側から出ている。

プリンスと言えば、自作に既存のイメージを引用し、それにアレンジを加える「アプロプリエーション」の帝王。世に出回っている小説のカバーや広告などを再撮影したりスキャンしてプリントし、その上にペイントやコラージュを施してポルノ的アングルを加えたものが彼の十八番になっている。こういう作風のせいか80年代にも似たような問題が起きており、その際にはオリジナル写真の著作者であるギャリー・グロスのみならず、その写真の被写体であった女優ブルック・シールズの母親からも裁判で訴えられている。

今回のドタバタで興味深いのが、The Art Newspaperに掲載されているガゴージアンの弁護士とプリンスの言い分。弁護士の方は、創作活動における著作権物の限られた範囲での複製は合法である、プリンスの活動は純粋なる創作活動であって商業的搾取を目的とするものではないとプリンスの行為を全面的に擁護。一方、プリンスの方は、キャリオウの写真をオリジナリティに欠けると非難した上で、自分の作品に使ったからといって彼の写真の価値に害はない、むしろ市場価値は上がるはずだといったことを発言している。

だが、プリンスのこの作品は、一点150万ドルから300万ドルの間で売られており、売上げは画廊と作家の間で折半という業界内の暗黙のルールを考えれば、かなりの金額が作家の手元に入っていることになる。この立派な経済活動を前に、美術界のビジネスサイドにたつ画廊の弁護士が、プリンスの活動を創作活動だけで片付けてしまうのは、常識的に考えてどこかがおかしいように感じる。同じく、プリンスのコメントもみごとに論点がずれていて、その芸術的価値が高かろうが低かろうが、著作権で守られている以上、勝手にコピーをしてはいけないという基本がまったく無視されている。

この記事を読んで感じたのが、美術業界の常識が一般のそれから如何にかけ離れているかということと、美術では定番になっているこの「アプロプリエーション」という行為が、いかに著作権法のグレーゾーンにあるかということ。少し前までテート・モダンで展示されていたドミニク・ゴンザレス・フェレステルの『TH.2058』をはじめ、引用はレディメードと並び現代アートでは定番中の定番になっているが、著作権物の使用という観点から考えると、無許可で使用した場合、もちろんその使い方にもよるが、香港あたりで出回っているルイ・ヴィトンの偽バッグや映画のDVD海賊版とかなりの近似値にあるように思われる。

これまでは創作の名において大目にみられてきたが、アートがここまでビジネス化すると、著作権問題にナーバスになる作家(使われる側)が増えても当然だろう。でもその反面、引用が許されないとなると表現の自由に歯止めがかかる。今回のプリンスをめぐる裁判にはなんだかとても興味深いものを感じる。(トコ)

The Art Newspaperの記事
Gagosianのサイト
Patric Cariouのサイト

余談・・・今日は横浜の青空を見ながらの書き込み。気分爽快と言いたいところですが、つきさっき知り合いから『SEVEN SEAS』が休刊になったと聞き大ショック…(今まで知らなかったこともダブルショック)。ここ数ヶ月内に書いた雑誌のうち二冊が休刊になってしまうとは、不況の波を肌で感じています(涙)。


 

4月24日

ゴームリーの「第四の台座」、参加者募集開始!

 

ロンドンアートこの夏一番のハイライト。7月6日からトラファルガー広場で始まるアントニー・ゴームリーの展示「One and Other」の一般参加者募集がイベントの公式サイトで始まった。

マーク・クインの巨大妊婦像など数々の話題作を送り出してきたこのイベントは、「第四の台座」と呼ばれるこの広場にある空の台座を使った国民的人気イベント。

 
Antony Gormley
One and Other
コンペに出されたゴームリーの第四の台座プロジェクト作品案。

本来ならば国王や名将の彫像が置かれるはずの台座を、現代アートのショーケースに使おうという画期的な企画。毎回、作家数名によるコンペが開かれ、勝ち抜いた一名の作品が一定の期間展示される。

屋外という場所柄か、これまでの定番は雨に濡れても鳩にフンを落とされても大丈夫な彫刻や立体だったが、今回のゴームリーの作品は、彫刻を据える代わりに一般の人に立ってもらおうという一風変わったもの。

ひとり当たりの持ち時間は1時間。その間、歌おうが踊ろうが寝ようが何をしても自由。 この1時間スロットの「パフォーマンス」が、100日間、24時間ぶっ続けで決行され、合計で2400名が台座に登場することになる。

残念ながら、応募できるのは英国在住者のみに限られているが、全国津々浦々デモクラティックな姿勢で、人口比例主義を導入しているところが面白い。ウェールズは67名、スコットランドは207名、イングランド南東は333名…と、各地域の人口に比例して当選者の枠が設けられている。選考はコンピュータによってランダムに行なわれる。

英国在住の方、アートになる心境を味わえるまたとない機会。ぜひトライしてみては? 応募はこちらから。(トコ)

 

上)Thomas Schutte
Model for a Hotel, 2007

下)Marc Quinn
Alison Lapper Pregnant, 2005
Trafalgar Square
Photo: Toyoko Ito

余談・・・今日は一年振りに横浜の空を眺めながら書きました。同じ曇り空でも、こっちはミルキーホワイトで、あっちはねずみ色だなどと、くだらぬ分析をしながら。至福のひと時です(笑)。

  

4月4日

ホワイトチャペル明日オープン!

 明日5日から一般公開されるホワイトチャペルの新ギャラリーに一足先にお邪魔してきました。

隣の図書館だった建物を併合して広さ8割増しになった館内は、中をがっぽり改築したというよりは、建物間の壁を一部取りはらって行き来できるようにした控えめなコスメアップだったが、展示室の数が増えた分、作品数も増えて充実。4つの展覧会が同時開催されている。

 
Artwork by Isa Genzken at Whitechapel

そのメインが、ドイツの作家イザ・ゲンツケンの回顧展。80年代から現在までの主だった作品を一階と二階の昔からある展示室を使って一挙に公開中。一昨年のヴェネツイア・ビエンナーレのドイツ館で見せていたマネキン系の作品も一部公開されている。

一方、少し前まで図書館の閲覧室だった一階の新しい展示室では、去年のターナー賞にノミネートされたゴシュカ・マッキューガの個展を開催中。ピカソ《ゲルニカ》のタペストリーをNYの国連安全保障理事会会議場から取寄せて、それに更なる政治的側面を持たせた興味深い展示になっている。

 
Artwork by Goshka Macuga at Whitechapel

また、二階に新たに加わった旧図書館側の展示室では、美術家のマイケル・クレイグ・マーティン選出によるアーツ・カウンシルのコレクション展と、戦前に活躍した地元の作家グループ、ホワイトチャペル・ボーイズの作品展を開催。

さらに、これら4本の他にも、リアム・ギリックがデザインを担当した映写室ではウルスラ・メイヤーの映像を上映。通路や会場脇の小さな空き部屋では、ユルゲン・テラーアンドリュー・グラッシーの写真、オリヴァー・ペイン&ニック・レルフの映像なども公開している。

ホワイトチャペルといえば1901年開館のロンドンでももっとも由緒ある公営ギャラリーのひとつ。その間、長いこと英国と海外の芸術をつなぐ窓口の役割を果たし、ピカソポロックロスコフリーダ・カーロもみなここから英国に入り、国民の知るところとなった。また、スペイン内戦終結年の1939年に《ゲルニカ》(絵の方)を公開し、同作を展示した英国で唯一のギャラリーにもなっている。

そんな立派な美術館の再出発にアートの宝箱みたいなオープニング展はぴったりだが、今回一番のスターといえば、亡霊という形で参加している巨匠のピカソであろう。タペストリーではあるが、あの「反戦のシンボル」のパワーに勝るものはない。しかも、G20金融サミットへの抗議デモで街が荒れるなかの到着とは皮肉というか面白いタイミングだ。 詳しくはこちらで。(トコ)

  

3月30日

ロンドンのトップ画廊がロイヤル・アカデミーに進出

  レビューを掲載しました。 今月12日にロイヤル・アカデミーの敷地内に移転した画廊ホーンチ・オブ・ヴェニソンのオープニング展のレポート。博物館を真似た盛大な展示が話題になっています。

  

3月28日

ヘルシンキ写真際

 

『PhotoGRAPHICA』の取材を兼ねてフィンランドに行ってきました。一部終わってしまったものもありますが、現地でヘルシンキ写真際(HPF09)が開かれていたので手短にご紹介を。

■Aletheia - Positions in
ContemporaryPhotographies @ Art Museum Meilahti

HPF09の中核をなす展示で、作家15名が参加。コンテンポラリー・フォトグラファーが写真というメディアとどう向き合い、また、写真を通じて社会とどう関わり、それをどう表現しているのかを検証した展示。写真は決定的瞬間を捉えるものという通念に対抗して、ベルリンの街を最長2年にも渡る長時間露出で撮ったMichael Weselyの風景写真から、子供時代のスナップ写真に現在の自分の姿を合成し、十数年の時の経過を一枚の写真に閉じ込めたChino Otsukaのダブルポートレートまで、現代写真の最前線が勢ぞろい。半数以上が今回初めて見る作品で刺激たっぷりでしたが、残念ながら3月22日で終了。私も駆け込みでした…。詳しくはこちらで。

 
Chino Otsuka
1976 + 2005, Kamakura, Japan
© Chino Otsuka

ちなみに上で紹介したOtsukaさんはロンドン在住のようで、個展がこちらの大和日英基金で4月6日から始まるみたいです。詳しくはこちらで。

■Tense Territories -
Mohamed Bourouissa, Sini Pelkki, Carrie Schneider, Sauli Sirvio
 @ The Finnish Museum of Photography
副題の作家4名の個展を同時開催中。アメリカ、フランス、フィンランド出身、78年以降生まれの現在30歳前後の若手ばかり。上の「Aletheia」が写真というメディアの応用に焦点を置いていたのに対し、こちらはもっとストレートな表現に集中。酒とセックスとグラフに溺れたストリート・アーティストたちを撮ったSauli Sirvioのグランジなフォトダイアリーや、パリの若い移民コミュニティーを一触即発の緊張感をもって撮ったMohamed Bourouissaのステージド・フォトなど、テンションの高い作品が揃っている。ちなみに後者のBourouissaは、一昨年のアルル国際写真際でVoices-Off Fringe賞を受賞するなど、今欧州で最も期待されている若手のひとりで、深刻な社会問題と映画的なストーリー性を組み合わせた表現がなかなか斬新。こちらは5月24日まで開催。場所は市内西部。地下鉄Ruoholahti駅から徒歩5分程度。詳しくはこちらで。

 
Mohamed Bourouissa
Tasavalta/ Republiken/ The republic 2006
Courtesy Gallery Les filles du calvaire (Paris/Brussels) and Galerie Le
Chateauu d'Eau (Toulouse)

A Stitch in Time @ Photographic Gallery
Hippolyte

うえの二つが公立の「美術館」であるのに対し、こちらはフィンランドのアート・フォトグラファーの組合本部を兼ねる国内で最も古い写真専門のギャラリー。フィンランドには絵画、立体、写真などジャンルごとにアーティストが運営する組合−Union−があり、写真家の組合には現在340名ほどが加盟しているとか(ちなみに商業畑の写真家はこれには含まれないそう)。

HPF09の期間中、いくつかプログラムが用意されているようだが、私が訪ねたときには、ここ数年世界的に注目されている写真家一派「The Helsinki School(ヘルシンキ・スクール、ヘルシンキ派)」のなかから大御所のUlla Jokisalo とLeena Sarasteのコラボレーションを紹介する個展が開催中だった。モノクロ写真に赤や青の糸で刺繍を施したシュールかつノスタルジックな作品が彼女らの定番。残念ながらこれちらも3月29日で終了。次はUrsle Schneiderの写真展で、4月3日にオープン。場所は市内中心部。地下鉄Kampii駅から歩いて5分程度。詳しくはこちらで。 HPF09のオフィシャルサイトへはこちらから

HPF09とは別に、写真がらみの個展が下の美術館でも開催中です。ふたりともUlla Jokisaloと同じヘルシンキ・スクールの作家。ちなみにこのヘルシンキ・スクールとは、ヘルシンキにあるUniversity of Art and Design Helsinki(UIAH)の写真学部の卒業生(在学生・教師を含む)のことを言います。ファイン・アートのみの大学は市内に別にあり、こちらには工芸などのデザイン科が含まれるので、ロンドンでいうとロイヤル・アカデミーに一番近いという話です。詳しくはこちらで。

■Santeri Tuori: Forest
@ EMMA, Espoo
こちらはヘルシンキ郊外の町EspooにあるWeeGeeという複合文化施設の中にあるモダンアートの美術館。「The Helsinki School」の作家のなかでも写真と映像を合体したユニークな作風で国際的に評価を得ているSanteri Tuoriの過去最大の個展を開催中。展示室5部屋を使った作品は、フィンランドのオーランド諸島で3年がかりで森を撮ったもの。木々の枝や葉が幹から零体離脱するように微妙に動く“映像”は、天候と季節を変えて同じロケーションに何度も戻り、写真とヴィデオの両方を使ってまったく同じ構図で撮影した画像と映像を合成したもの。これに風の音など森のサウンドが加わって、「森は生きている」効果がうまく出ていました。 5月17日まで。 詳しくはこちらで。

 
Santeri Tuori
Forest 1, 2009, video still

妙なこともあるもので、このSanteriの展示はHippolyteに行ったときにたまたまギャラリーにいた作家に会って(もちろん初対面)、本人から教えてもらったものでした。しかも色々と話しているうちに、今年の9月に東京・青山のスパイラルホールで個展が決まっていて、この作品を発表すると聞いてびっくり。その翌日に国立美術館のAteneum Art Museumにふらっと行ってみたら、そこにも彼の作品があってまたびっくり。ちなみに今年のバーゼルの「Art Unlimited」にも参加するようで、いま絶好調みたいです。

■Ola Kolehmainen @ Kiasma
市内中心部にあるヘルシンキを代表する現代アートの美術館のKiasmaでは、ベルリン在住のOla Kolehmainenの盛大な写真展「A Building Is Not a Building」を開催中。モダン建築のディテールを抽象画のような構図で撮っている彼は、ヘルシンキ・スクールの旗手ながらもベッヒャー派と呼びたくなるような写真家。撮っている建物はアルヴァ・アールト、フランク・ゲーリー、ミース・ファン・デル・ローエ…と名だたる建築家の作品ばかりだが、幾何学模様に要約された写真は建物の原型がまったくわからぬ色と形のみのフラットな世界。建築物をそれとわかるように撮るのではなく、その中に見出した形象と美を掘り出したような独自の視点が面白いです。詳しくはこちらで。(トコ)

  

3月17日

フクロウの嘔吐物にとりつかれた男

 

レビューを掲載しました。単なる偶然か、筆者の偏見か、今回の美術家アラステア・マッキー(Alastair Mackie)も動物系です。かなり変わった作品をつくっています。(トコ)

  

3月7日

雑誌の休刊に寄せて…

 

『エスクァイア日本版』が休刊になると聞いた。

つい何ヶ月か前にマーティン・パーの記事を書いたばかりなので信じられなかったが、どうも本当のことらしく、早くも復刊に向けての署名運動が行なわれている(署名サイトへはこちらから)。

書いた記事はほんの数える程度だが、一番最初にもらった雑誌の仕事がその別冊にあたる『ルカ』というアート雑誌だったので、兄貴分の休刊には寂しいものを感じる。(ちなみに『ルカ』ももうないが)

もう三年以上前のことになるが、プロダクトデザイナーの吉岡徳仁さんをゲストに迎えて、編集部の斉藤氏と一緒にロンドンのアートブック系の書店を取材で廻ったことがある。

行く先々で雑誌を見せると、グロッシーなセレブマガジンといった印象のある英国版とは違って、日本版が専門誌も顔負けの徹底したカルチャーマガジンであることにみな驚き、「これが本当にあのエスクァイアなの?」と、よく聞かれたのを覚えている。

チャリング・クロス・ロードにあるクレア・ド・ロウエン・ブックス店長のクレアさんとは、未だに会う度にあの時の話が出るし、あの後よくお客さんに、「日本のエスクァイアに載ったのよ」と言って雑誌を見せていた。

同じく、フォトグラファーズギャラリー・ブックショップ店長のジョンからも何度も「いい雑誌だね」と褒められ、そのたびに日本にこういう雑誌があることを誇らしく感じた。そんな優れものの雑誌が休刊になるとは、なんだかとても残念だ。復刊を祈る。(トコ)

  

3月5日

「サメ」のつぎは「クジャク」?

 

レビューを掲載しました。今回の美術家ミルチェ・カントル(Mircea Cantor)は、久々にみるユニークな発想の若手。ティノ・セーガルやフィル・コリンズを初めて見たときのような新鮮さを感じました。(言い換えると、そういう作家がここ数年少なかったのですが…)

  

3月5日

余談 ・・・

 

■ ロンドンアート特集を担当した『Seven Seas』4月号が届きました。

「なぜロンドンが世界のアートの中心地になったのか?」この問いに答えるべくはじまった今回の特集。ケイト・モスの黄金彫刻で去年話題をまいたマーク・クインを筆頭に(表紙もマーク)、イーストエンドにいち早く画廊を開いたモーリン・ペイリー、英国5大コレクターのひとりデイヴィッド・ロバーツ、美術専門紙『The Art Newspape』rの新編集長ジェーン・モリスなどに取材をしました。アート・バブルが弾けた直後の取材。興味深い話が聞けました。巻頭の記事はデミアン・ハーストです。詳しくはこちらで。

 
Exhibition view
Peter Fischli / David Weiss
Objects on Pedestals
SPRUTH MAGERS LONDON

■ 『PHOTO GRAPHICA』4月号が届きました。

連載コラム「PORTRAIT'S: 欧州写真家の肖像」に、マグナムフォト発行の異色のファッション・マガジン第四弾を担当したリーズ・サルファーティを取材しました。また、パリフォトの特集に、自費出版の写真集『The Last Days of W』が話題沸騰のアレック・ソス、同じく新作『The Birthday Party』が好評のヴィー・スピアーズ、現在フォトグラファーズ・ギャラリーで新作『Avenue Patrice Lumumba』が公開中のガイ・ティリムにインタビューしました。メイン特集は若木信吾さん。今回の号からデザインがリニューアルし、アートディレクションを中島英樹さんが担当しています。詳しくはこちらで。

 
Exhibition view
Peter Fischli / David Weiss
Objects on Pedestals
SPRUTH MAGERS LONDON
  

3月3日

ウェストエンド徘徊

 

グリーン・パークからピカデリー、オックスフォード・サーカス付近のギャラリーを回りました。その中から、印象に残ったものを幾つか抜粋。最後の二つはもたもた書いているうちに、展示が終わってしまいました。ご容赦を。

SPRUTH MAGERS,
GRAFTON STREET
2006年にテート・モダンで回顧展が開かれたスイス人作家ユニット、ペーター・フィッシュリ&ダヴィッド・ヴァイス(Peter Fischli & David Weiss)の個展。家具や日用品をゴムで模った80年代後半の立体シリーズ《Rubber Sculpture》と、粘土で作った近作の両シリーズを発表。白い台座にのこぎりや引き出し、鎖、レコード盤といった美術らしからぬモチーフの「彫刻」が美術品然として展示されていて、なんだか異様だ。レディメードの使用ではなく彫刻としてちゃんと作っている点、一見このまま使えそうに見えて使えないところが面白い。この二人は80年代以来ずっと「日常生活の平凡で馬鹿らしいところ」にフォーカスしてきたそうだが、本当に、よくこんな退屈なものを彫刻にしたなあと感心する。まあそこがよいわけだが。「Objects on Pedestals」。3月28日まで。

 
Exhibition view
Peter Fischli / David Weiss
Objects on Pedestals
SPRUTH MAGERS LONDON


THE ECONOMIST PLAZA, ST.JAMES'S STREET
こちらは英国の時事情報誌『The Economist』で知られるエコノミスト・グループの自社ビル内の会場。イギリスの新進気鋭、アラステア・マッキー(Alastair Mackie)の個展が開かれているはずなのだが、会場のなかはもぬけの殻。わけがわからず帰ろうと思ったら、広場の手すりに座って日向ぼっこをしている同誌の編集員、もとい、チンパンジーを発見。よく見ると、実物大のブロンズ彫刻。ディテールがリアルでいい出来だったが、これが何を意味するのかは不明。その後に読んだパンフレットに、もしあの偉大なる進化が起きなかったならば今ごろ我々は…みたいな一文が書かれていて、私たちの姿だってことはわかったが、でもだから?と疑問が残る。これも馬鹿らしいのがポイントかな?確かに笑えるが。4月17日まで。

オックスフォード・サーカス裏手のデイヴィッド・ロバーツ財団(David Roberts Art Foundation、昔のGallery One One One)でもマッキーの個展を同時開催中。こちらはネズミだ。3月28日まで。

 
Exhibition view
Alastair Mackie
Mimetes Anon
THE ECONOMIST PLAZA

■ SIMON LEE, BERKELEY STREET
70年代から活動しているロス在住の作家ジム・ショウ(Jim Shaw)の個展を開催中。メディア混在の幅広い展示になっているが、見どころは地下で上映中の映像。おかっぱ頭に、シフォンのミニドレスを着た美女たちがお花畑のような創作ダンスを披露するのだが、画面全体に70年代頃のアメリカの低予算系ファンタジー映画のようなカルトさが漂っていて何とも独特。ショウはスピリチュアルな世界をメインテーマに活動してきた一風変わった作家のようで、代表作のひとつに、架空の宗教団体をつくる《Oism》というプロジェクトがある。この宗教の教義の柱となっているのが、女性の神格性と、時間は過去に向かって流れるという二点らしいが、怪しげな新興宗教に特有のやば〜くピュアな感じがこの映像にもにじみでている。上手くは言えないが。「The Whole: A study in Oist Integrated Movement」。3月28日まで。

■ WHITE CUBE, MASON'S YARD
戦後ドイツを代表する画家のひとりゲオルグ・バゼリッツ(Georg Baselitz)の個展。2007年のロイヤル・アカデミーでの展覧会のキュレータ、ノーマン・ローゼンタールがこの展示の企画も担当。白地にカラー、黒地にグレーと白と、色彩が2タイプにわかれた絵画シリーズを発表。オットー・ディクスの1924年の絵画《Portrait of his Parents》が基になっているが、親の肖像がレーニンとスターリンのそれに変わっている。バゼリッツの定番どおり、モチーフは上下さかさま。よく見ると、ズボンのチャックから一物が出ているが、昔の作品に比べるとエロさは控えめ。面白いのが作品のタイトルで、ソビエト建国の二大政治家からジェフとデミアン、マルセルとマウリツィオなど、美術家の名前に置き換えられている。アンディのタイトルが最高。ホワイト・キューブへのゴマすりか、ジェイク&ディノス、トレイシーなどここの作家の名前が目立っていた。「Mrs Lenin and the Nightingale」。3月21日まで。 

THE APPROACH,
MORTIMER STREET
ロサンゼルス在住の作家エヴァン・ホロウェイ(Evan Holloway)の個展を開催中。鉄の棒とコンクリートの小石を使った、超複雑な三次元ダイヤグラムといった感じのスカルプチャーを展示中。この作品は最終的にシリーズ100まで続く現在進行中の作品。そのうち、今回は51番から55番までの5点を展示。それぞれが、枝を大量につけた木のような形態をしていて、番号の数だけ枝の先に小石がついている。線が描くアブストラクトな模様と、石に描かれたプリミティブな顔との対比がなかなか。何とかの法則…という少しばかり科学めいた空気が漂う。気持ちだけだが。3月28日まで。

 
Exhibition view
Evan Holloway
THE APPROACH

MODERN ART,
EASTCASTLE STREET

展示最終日に駆け込んだジョナサン・ミース(Jonathan Meese)の個展。スカーレット・ヨハンソンのグラビアを貼りまくって、べとべとに絵の具を塗りたくった、ストーカーや精神異常者を彷彿とさせるようなグロい絵画と立体、トイレで怪しい行為をしているパフォーマンス映像などを展示していた。毛沢東など政治家の写真と一緒に使い古しのパンツが飾られた桶(赤ちゃん用ベッド?)は、ちょっとエミン系。これはイーストかサウスの小汚い倉庫か地下道あたりで見せてもらいたかった。高級画廊に転じたモダン・アートのスペースではビジネスの匂いがしすぎる。「Casinoz Babymetabolismn (Put Dr. No's Money in your mouth, Baby)」。2月21日で展示終了。

 
Exhibition view
Jonathan Meese
"Casinoz Babymetabolismn" (Put Dr. No's Money in your mouth, Baby)
STUART SHAVE / MODERN ART

PILAR CORRIAS, EASTCASTLE STREET
モダン・アート向かいのこの画廊では、サーチ・ギャラリーの「Unveiled」展でいま紹介されているイラン系アメリカ人、タラ・マダニ(Tala Madani)の個展を開催していた。頭のハゲ上がった親父が、パンツ一丁でえげつない行為をするドタバタコメディのような絵画シリーズを展示。画中に縞々模様が頻繁に出てくるが、これは二つの大戦時に敵の爆撃を避けるために船に対して用いられたカモフラージュパターンを応用したものだとか。シマシマパターンをかぶせてもオヤジの浅ましい姿は消えない。「Dazzle Men」。2月28日で展示終了。 (以上、トコ)

  
 
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