Alex Villar, Upward Mobility, 2002
 デンジャー・ミュージアムでのインスタレーション風景(第一週)
 photo: Issei Yoshida, 2002©

  
トコ(以下T): ロンドンでの展示の時は色々と大変だっと思いますが、日本に戻って落ち着かれましたか?
 
 
清水美帆(以下S): そうですね。どこかに赴いてプロジェクトを行なうのは大変ですが、充実した日々でした。まだ、あの頃の興奮が冷め遣らないといったところです。
 
 
 
T: デンジャー・ミュージアムの印象は今でも鮮明に残っています。inIVA(イニヴァ)の白い空間がどこかのオフィスのように様変わりしていて。
 
  
: はい。inIVAの空間に美術館の構成を模倣するものでした。アーティストが制作した商品を販売するミュージアム・ショップ、館長達の働くオフィス、作家の資料が閲覧できる図書館、一休みできるカフェ、招待作家が展示を行なうプロジェクトスペースを同一室内に配置したものでした。
 
  
T: そう、まるで美術館の縮小版のような。でも単に美術館を表現したインスタレーションとは違うのですよね?
 

 
S: 美術館の構成を真似るだけでなく、その構成のなかで招待作家達の作品を展開しました。構成は私達ディレクターが行ないましたが、強く意識したのは、作家達と一緒にプロジェクトを立ち上げるということです。また、毎週異なる作家・グループに焦点を当てて4週間展示しました。
 
 
T: 私がお邪魔した週はアレックス・ヴィラの映像作品でしたよね?
 
 
S: アレックスはニューヨークをベースとしている作家で建築空間と身体の関係を探求する新作映像作品「Upward Mobility」を発表しました。現実の都市空間は水平方向の流れを促すように形作られていますが、このビデオでは垂直方向へ逸脱する人物(作家自身)が現れます。その人物は建物の塀、電話ボックス、バス停などをよじ登ります。このよじ登るという行為は子供のいたずらや泥棒の侵入、人目を引くような抗議といった行動と共通点がある一方で、より良い生活を求める人間の象徴としてもとらえることができて、とても興味深く思います。
 
 
T: 滑稽でしたよね。塀はよじ登るためにある!というような彼の姿は。
 
 
S: そうですね。ありとあらゆる所を絶えず登っていましたから。
 
 
T: でも、より良い生活を求める人間の象徴とは気づきませんでした。それで、最終的に彼は登り切れましたっけ?
 
 
S: 登れ切れたところでのカットもありましたし、ある地点まで登り切ったところでのカットもありました。エンドレスに繰り返される彼の動きは、障害のあるルートでも、絶えず上を目指すという人間の姿と読めると思います。例えば、アメリカン・ドリームですとか、イギリスで言えば労働者階級から上流階級へ登りつめる困難さなどが連想されます。
 
 
T: 他にはどんな方を紹介されたのですか?
 
 
S: 第二週目は、シンガポールで収集した物をフリーマーケット風に展示するキョン・ファ・チェを紹介しました。軍人のおもちゃが付いたカラフルな籠を開けると、中にはシンガポールで集められた品物が隠れているのです。おもちゃのお札だったり、小さな急須だったり、シングリッシュ辞典だったりと色々なのですが、来場者はこれらを購入することができます。買うということはとても個人的な行為で、見入って比較したりして、物との関係は特別なものとなります。作品に触れてもいいし、それを購入してもいいということもあって、みんな籠を幾つも開けていました。中央のスーツケースには、シンガポールの豊かな食文化を反映して、いろいろなスパイスが匂いを漂わせていました。
 
 
 

Kyong Fa Che, Collecting Singapore, 2002 (Installation)
 Nicola Meitzner, Singaporeans, 2002(Photography)
 デンジャー・ミュージアムでのインスタレーション風景(第二週)
 photo: Danger Museum, 2002©

 
 
S: その他にはアーティスト・ビレッジというシンガポールの美術団体、次の週にはドイツ出身のマッツ・シューミットとセバスチャン・ステグナーを紹介しました。
 
 
T: グローバルな選出ですが、作家はいつもどのように選ばれているのですか?
 
 
S: 私達が出会った人の中からプロジェクトに相応しい人、一緒に制作をしたいなと思う人を選んでいます。プロジェクトを行なっていないときには、アーティストや美術史家やキュレーターに会って、おもしろい作家や美術動向について情報を集めるようにしています。
 
 
T: プロジェクトに相応しい方ということですが、もう少し具体的にいうと?
 
 
S: 思考や制作の過程の共有に関心があるので、基本的に作品制作の背景を公開することに興味がある人と制作をします。アートは、アーティストだけが形成しているのではなく他分野(キューレーション、美術史、美術批評など)との関係から成り立つものだと感じているので、他分野の人とも共同制作をして、お互いの視点を理解したいと思っています。他分野とのクロスオーバーが頻繁に起きている現在のアートシーンを考えると、このような活動が生まれるのも自然なことかもしれません。
 
 
T: 展示作品も面白いと思いましたが、実は私はデンジャー・ミュージアムのカフェがとても好きでした。
 
 
S: そう言っていただけると、とてもうれしいです。美術館カフェも、カフェをアートプロジェクトとして行っている作家を招待したりして、一味違ったものになるようにしています。inIVA では、Dream Products Co. (ドリームプロダクツカンパニー)運営のaRt cafeに参加してもらいました。
 
 
 

 Dream Products Co., aRt cafe, 2002
 デンジャー・ミュージアム内に設えられたカフェ。
 photo: Issei Yoshida, 2002©

 
 
T: ドリームプロダクツカンパニーというと? 
 

S: ドリームプロダクツカンパニーは夢に関するプロジェクトを数々行なっています。aRt cafe は美術館や美術系イベントに出現し、くつろぎの空間といった実用的な場を提供することによって出会いと会話を生み出すことをねらいとしています。
 
 
T: あのカフェの存在が空間全体にリラックスした雰囲気を創りあげていたように私には感じられました。
 
 
S: 展示空間はアット・ホームなものにしたいといつも考えているんです。堅苦しくない環境の方が、観客も作家も本音で話し合えると感じているので。
 
 
T: でも正直なことを言うと、最初とても戸惑いました。inIVAの展示室があまりにも変わっていたので。
 
 
S: 私達のプロジェクトを体験したことのない人の中には戸惑う方もいるようですが、そういう方には私達や参加作家達がプロジェクトのコンセプトを紹介しながら、室内を案内して差し上げます。こちらから観客にアプローチすることにより、観客も受身で作品を見るのではなく積極的に質問や意見をぶつけてくれるようになります。こうゆう交流からアートとは何か、どこにアートは存在するのかといった議論に発展することもあって、場が一層緊張感のあるものになることも。
 
 
 


 


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