Conrad Shawcross, The Nervous Systems 2002
Entwistle(エントウィッスル)での展示風景。
Courtesy Entwistle, London


レトロチックな糸紡ぎ機がゆっくりと廻り続けるエントウィッスルの展示室。そこには幾つもの歯車から成る機械二体が、巨大化した絡繰装置のように、或いは、室内用につくられた遊園地の乗り物のように置かれている。逆方向に回転する其々の機械の4つのアームには、巻き糸が8個ずつ設置され、其々のロールから糸が天井に据え付けられたバーに向かって伸びている。糸はそこで一本に束ねられ、カラフルなロープとなって床に産み落とされていく。

オーク材と糸からなるこの動く立体「The Nervous Systems」は、今ロンドンで最も注目されている若手の一人Conrad Shawcross(コンラッド・ショークロス)によるものだ。線や円といった幾何学的フォルムに分解できるこの機械のような作品は、全体に漂うレトロ感も加わって、マルセル・デュシャンが大ガラスに描いたコーヒーグラインダーをどこか髣髴させる。エンジニアリングにロマンを見出す人間が、右脳を使って生み出した想像(創)物にみえなくない点で両者は似て感じる。しかし、興味深いことにショークロスの場合、作品は平面から三次元となって巨大化しただけでなく、鑑賞物という枠組みを超え実際に物を作り出す機械となってしまっている。

「The Nervous Systems」は糸紡ぎ機としての機能を持つ一方で、神経系を示すタイトルからもわかる通り生命を比喩的に表した作品でもあるようだ。この点は複数の糸を捻って束ねたロープの形状が、DNAを表すときに使われる図形に似ていることからも推測することができる。果てしなく生み出されるロープがDNAであるならば、それを生み出す機械はさしずめDNAが宿る人間あるいはその人間を作ったとされる神となるのだろうか。デュシャンのコーヒーグラインダーが機械化してしまった人間だということを考えるとこちらも人間のように思えてくるが、いずれにせよ生命を維持するシステムの比喩と捉えることができる。

地下に展示された「Pre-retroscope」シリーズになると、機能と幾何学フォルムの結合はより一層不可解なものとなって展開する。まず入り口近くには、木製ボートに車輪のような物体を重ねその周囲をフラットスクリーンが回る奇妙な作品が置かれている。海上版とされるこの機械の動くスクリーンには、港沿いで取られた360度パノラマ風景が流れている。展示室奥には、ボートの代わりにスタンドを据えつけた陸上版なる作品が置かれている。

「Pre-retroscope」の機能は見た目には「The Nervous Systems」ほど明らかではないが、海上版、陸上版ともに画面を外して代わりにカメラを取り付けると、パノラマ撮影のための機材に早変わりする。画面に流れている風景は、実際にこのようにして撮影されたという。さらに海上版は海での撮影を可能にするボートとしても機能するらしく、ギャラリーの壁にはこのボートに乗って海を行くショークロスを撮った写真も飾られている。

いずれも実用的機能を特徴とする作品ばかりだが、これらの機械はただおとなしく作動しているだけでは物足りず、人からの注目もそれなりに欲しいとみえる。故意かどうかは別として、「The Nervous Systems」は複雑な構造ゆえに時々糸が縺れ人の手を必要とする結果となっている。「Pre-retroscope」は、見たいという人間の心理をついて、観客に動くスクリーンを追って歩き回らせる。歯車や車輪で出来たものでありながらも、注目されたいという芸術品的エゴを内に秘めた機械のように感じられた。

伊東豊子(Toyoko Ito), 2003年3月

Conrad Shawcross
"The Nervous Systems"
030117 - 030315
Entwistle


Top

Exhibitions

Home


fogless.net
e-mail: editor@fogless.net
This site has been designed and managed by Toyoko Ito (Toko) copy; 2000-2010 All Rights Reserved
このサイトは伊東豊子(トコ)によってデザイン及び管理・運営されています。本
サイト内で用いられているコンテンツ(文章・画像など)を無断で複製・転載・転用することはできません。