イメージの欠片からストーリーが溢れだす土屋信子の世界。時空を超える旅とでもいうように、そこではギリシャ彫刻から未来都市まで色々なものが一つに織り込まれていく。ヴェネツィア・ビエンナーレ参加、ロンドン個展と続いたこの六ヶ月間を振り返り、「完璧でした.制作のなかに存在している様な感覚でした」と語る彼女に、現代美術作家になった動機からビエンナーレ出品に至るまでお話を伺ってみました。

伊東豊子(以下IT) 以前はジュエリーデザイナーをしていたと聞いていますが、現代美術作家になろうと思ったきっかけを教えてもらえますか?

土屋信子(以下TN) 自由になりたかった、というのが率直な気持ちでしょうか。計算の答えを出す仕事(私の思うデザインの仕事)が、なんかしっくり来なくなっちゃったんですね。

IT それで留学を決心したんですか? でも、またどうしてロンドンを?

TN 「アーティストに絶対なろう」って思っていたから、外国人を受け入れてくれる国じゃなきゃダメって思ったんですね。イタリアに戻りたいとも思ったんですけど、あそこはイタリア人にならないと入れないっていう印象もあって、ロンドンに下見に来たんです。で、その時に『2000年テートモダン・オープン』って旗がバーンと出ていて、「あ!みんな私のために立ててる」って感激しちゃったんですね。それで「いいや、もうここで!」って思って決めてしまいました(笑)。

IT 所属ギャラリーの経営者アンソニー・レイノルズ氏と卒業展で会ったの時のことを聞かせてもらえますか?

TN 作品を通してイメージ遊びをしたように思います。お互い人生観を匂わす比喩なども入れながら。楽しかったですよ。良く言えば、詩的でハイパーインテリジェンスな会話?プッチンきてる会話とも言えるかもしれないけれど(笑)。

IT どういうところが気に入られんだと思いますか?

TN 一番はじめに私、「I don't know anything about art(アートのことは何も知りません)」って言ったんですね。セオリーのこと何も知りませんというよりも、私には関係ありませんという気持ちだったんですけれど。後から聞いたことによるとそれが気に入ったみたいです(笑)。

 Nobuko Tsuchiya
...with an asparagus pillow ...
2003

Mixed media
104.5 x 90 x 42 cm
Courtesy Anthony Reynolds Gallery, London
© the artist, Anthony Reynolds Gallery, London
ロンドン個展で発表された作品のひとつ。

IT ちなみにどんな作品だったんですか?

TN パッと見、とんちんかん発明博士の実験室みたいなインスタレーションでした。壁には訳の分からないドローイングがあって、中央には部屋一杯のリップカラーのテーブルがあって(big big kiss youの願いをこめて)、その上はガラクタっぽい物で構成されていて。ガラクタ一つ一つはイメージの欠片で、私の中でストーリーになって繋がっているんです。例えば、未来電話はおしゃぶりをしゃぶりながら話をし、でも同時にあなた自身を送る事ができる。で、送られる先は、鍋の中で、あなたは泡になって、未来都市と化していく…って続いているんですね。高い所にプロペラっぽいのを付けたのは、それごと全部空に飛ばしたかったからで、いわゆる、ぶっ飛びたい願望ですね。パッと見、とっても綺麗ですよ。半透明なものを一杯使ってあるし。

IT ガラクタっぽい物がたくさん登場する土屋ワールドの素材について聞かせてもらえますか?

TN 基本的には使える物は何でも使えという感じかな。パウンドショップなんかに行って、ハンガーから何から使えそうな物を買ってみて、使えない物が弾かれていったんですね。私、物を壊して作って何かが出来るっていうのには、意味もなく自信があるんですね。おもちゃを買ってもらえなくて、子供の頃から家の物を壊してくっ付けたりしてたので。

IT 今回のロンドン個展に出された作品にはペットみたな可愛らしさがありますよね、特に「…"oh"…」なんか。作品に求めていることってありますか?

TN 願望としては、私の作品が観る人の「聞き役」になってくれるといいなと思っているんです。作品を通じて何かを言ったり伝えたいのではなくて、聞き役になってもらいたいんですね。友達出来ないから創ってみたって話もあるけど…(笑)。

IT 聞き役といえば、作品のタイトルが会話になっているみたいですね。何か特別な意味でも?

TN 今回のシリーズは一個一個別々の作品なんですけれど、実はスタジオの中では全部繋がっていたんですね。で、制作するなかでストーリーが出来上がっていって、その一部というか欠片が各作品のタイトルになっているんですね。

 Nobuko Tsuchiya
..."quietly now"...
2003

Mixed media
60 x 64 x 28 cm
Courtesy Anthony Reynolds Gallery, London
© the artist, Anthony Reynolds Gallery, London
ロンドン個展で発表された作品のひとつ。

IT 例えば、さっきも少し触れたこの「…"oh"…」という作品は、どういう作品なんですか?とても謎めいて見えるし、聞こえもするのですが・・・。

TN これはヴェネツィアに出した作品の一部だったんですけど、仕上げの時にバランスをみて取った部分なんです。結構気に入っていた形だったので「可哀相にヴェネツィアに行けなかったのね、君、じゃあ温かくしてあげるね」とか言って、布団の綿をつけてあげて、「もう、独り立ち出来るじゃない!」みたいな(笑)。そう、彼は人生は甘くないと言う事を知って独り立ちしたのです。だって、40度も気温がある日だったから。

IT 普通、どういう風に制作されているんですか?

TN 私の作品には大抵ストーリーがあるんですけど、プロセスとしては作業とストーリーが同時進行なんですね。例えば、アルミとアルミをこう繋げてみたら「あ!この形どこかで見覚えがある。ブランコだ!」っていう風に、物の欠片からイメージして、そこからまた次の発想が続いて。これを繰り返していって、もう少しで終わりそうな時に作品から何か言われる感じがするんです。「僕は生きている」とか「僕はヘリコプター」とかね。

IT 「Luca」のインタビューのなかでテーマは「旅するためのもの」と語られていますが、この点について聞かせてもらえますか?

TN その旅は、[頭を指差して]ここの中のもの。「travel in your mind」 って説明しているんだけど、日本語のニュアンスで言うと「自分自信の中を旅する」って感じかなぁ。実際の旅じゃないんです。今回のプレスリリースに書かれた「We are living in a time machine(私たちはタイムマシーンの中に生きている)」もその事から来ているんですね。

IT もう少し具体的に言うと?

TN 例えば、スペースシャトルの本なんかを広げると月の写真が載ってたりしますよね。それを見ると、もしかしたら十年後には行けるかもという気分になるのと同時に、小さい頃スペースシャトルのテレビ番組を観ながら父が「大きくなったらあそこに住むんだぞ」と言っていたのを思い出したり、頭のなかで記憶や想像が時空を超えて行き来するんですね。

 Nobuko Tsuchiya
Table Rabbit
2003

Mixed media
160 x 160 x 270 cm
Courtesy Anthony Reynolds Gallery, London
© the artist, Anthony Reynolds Gallery, London
ヴェネツィア・ビエンナーレのテーマ展会場アルセナーレで展示中の作品。

IT デビューを飾った今年のヴェネツィア・ビエンナーレですが、出品することになった経緯を教えてもらえますか?

TN 事のはじまりはバーゼルのアートフェアで、出品した作品が見に来ていたディレクター、フランチェスコ・ボナーミ氏の目に留まっだんですね。その後、彼が夏にロンドンのスタジオに来てくれて、メールのやり取りが始まって、ベニスまでかれこれ一年間。

IT 出品作品について聞かせてもらえますか?

TN 立体を三作出しています(「Table Rabbit」「Nike of Samothrace」「Your Chair」)。私のスーパートラベルチームです。「Table Rabbit」は大きなテーブルを使った作品で、テーブルウサギが元になっているんですね。小さい頃屋台でテキ屋が大きくならないって言って売ってたあれを大きく育てたの。

IT テーブルウサギとはまた懐かしいですね。でも、どうしてまたそれを?

TN 比喩として受け止めてもらいたいんですけど、「支障がある人はその、旅がいっぱいできる」っていうのがアイデアになっているんです。実は、自分のことなんですけどね。

IT 自分のことと言うと?

TN 実は自閉症で。小学校のはじめから5年生までずっとで、一応、卒業できるレベルは保っていたんですけど、学校は行ったり行かなかったりで。遠足があるのも知らなかったりとか。

IT ギリシャ彫刻と同タイトルの「Nike of Samothrace」でも、旅がテーマですか?

TN サムトラケのニケの写真が子供の頃の理科の教科書か何かに載っていたんです。その教科書を開けると動物のサイクルの図や細胞の図とか色んな絵が載っていて、それらの絵を辿ってはあっちこっち旅行しているのを空想して「どこへでも行けるニケだ!」なんて思っていたんですね。で、今回はそのニケの究極版、スーパーニケを作ってみたんです。本物のニケとはかけ離れていてどこがニケなんだろうって感じなんですけどね(苦笑)。

 

Nobuko Tsuchiya
Your Chair
2003

Mixed media
50 x 176 x 50 cm
Courtesy Anthony Reynolds Gallery, London
© the artist, Anthony Reynolds Gallery, London
ヴェネツィア・ビエンナーレのテーマ展会場アルセナーレで展示中の作品。


IT 時空を越える旅は最後の作品「Your Chair」で締めくくりですか?

TN これはスキーの板の上にバネみたいな物が載った作品なんですけど、コンセプトとしては観てる人がその椅子に座るとトラベルできてしまうっていう感じのものかな。テーブルラビットとニケの間をスイスイ滑りながら世の中のどこへでも、宇宙だろうが身体のなかの細胞だろうがどこへでも行けますよっていうコンセプトなんですね。頭痛くなっちゃっいました?

IT 少しだけ(苦笑)。人の頭のなかはプライベートなスペースなので再現するのが難しいですね。

TN そう、それ!だれの頭の中も再現なんて本当は全く出来ないんです。作品を通して私を分かってもらおうなんて微塵も思っていないし、私のコンセプトを分かってもらおうともしていません。ただ本当に、作品を通して、その人のそのプライベートなスペースを楽しんで欲しい。恥ずかしい言葉を使うけど、そのスペースに愛をいっぱいあげて欲しいんです。そのスペースでは社会的に畏まる必要も、社交的に振舞う必要もないんです。自由にいくらでもなれるんです。

IT 本音を吐くと、見れば見るほど不思議で結論に達しないという感じですね。

TN 結論はつまんないですよね。だって、終わっちゃうもの。結論がないから、今度また見ると違って見える。結論出す必要もあるのかなぁ…。好きな様に想像して欲しいんです。出来る限り、見る人が自由にできるスペースを作品の中に創りたいと思っています。自由に想像出来る感じにしたいと思っています、匂わせるだけにとどめて。セオリーとかでかちかち頭になっているイギリスのライターにはストレスを与えるみたいで、バッドレビューくらっちゃったんですけど、私としては「いい傾向!」と思っているんです。「リスクを負え!革命を起こせ!」ってだれかも言ってるし。

IT 今年はヴェネツィア・ビエンナーレにロンドン個展と制作続きだったと思いますが、土屋さんにとって制作とはどういう意味をもっていますか?

TN 想像、空想の中に生きられる所、自分自身を思いっきり楽しめる所で、この六か月は完璧でした。制作の中に存在している様な感覚でした。

IT それでは最後に、今後の拠点なども含めてこれからのプランを教えてもらえますか?

TN 来年オープンするスペインのThe Museum of Contemporary Art in Leonから出版される本に自由にしていいページをもらったので、ドローイングなどを出そうかと思っています。日本には帰りたいけど、帰ってこいって誰も言ってくれないし、誰かが言ってくれるまでおあずけです…。永遠だったらいやだな……。

 

土屋信子
1972年横浜生まれ。現在ロンドン在住。
ジュエリー・デザイナーとして働きながら、94〜96年にアカデミア・デラ・ベレ・アルテ・ディ・フィレンツェ(伊)に留学。一旦帰国後、2000年にロンドン大学付属ゴールドスミスカレッジ(英)に入学し、修了資格コースを履修。'02年のバーゼル・アートフェアに出品した作品がフランチェスコ・ボナーミ氏の目に留まり、第五十回ヴェネツィア・ビエンナーレに出品。会期中にロンドンのアンソニー・レイノルズ・ギャラリーでも個展が開催された。

"Nobuko Tsuchiya"展
03/09/11 - 03/10/11
Anthony Reynolds Gallery, London

"la Biennale di Venezia" The 50th International Art Exhibition, Venice
Clandestine at Arsenale
03/06/15 - 03/11/02

参考文献:
堤けいこ, 「ロンドンに刺激される日本の作家たち」, 『Luca no.2』, エスクァイア・マガジン・ジャパン, p82.

取材時期:2003年9月   取材:伊東豊子
© Toyoko Ito, September, 2003


 


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