バーのカウンター越しで、冬の雑木林で、車のブートに腰掛けながら…と、無難なポートレート写真が並ぶこの写真展。時にはマットレスに挟まれてとシュールな構図もあるが、基本的にはみなよくありがちなもの。だがこの"ありがち"という印象は、写真に添えられたコメントを読んだ時点で変わる。

「ラリー・メイズ。逮捕された場所。インディアナ州ゲイリー、ロイヤルイン・ホテル。室内のマットレスの下に隠れているメイズを警察が発見。レイプ、盗み、常軌をはずした不法行為により80年の刑を受け18年半服役」

タリン・サイモンの「The Innocents」に登場する人物は、メイズのようにみな実刑を受けた人間ばかりだが、重要なのは"無実の罪を着せられて"という点だ。レイプ、強盗、、殺人などの様々な罪状で禁固刑や終身刑、ときには死刑の宣告を受け、何年も服役した後に無罪が証明された人たちだ。撮影場所は、メイズのように逮捕された場所というケースもあれば、犯行現場や目撃場所など、いずれも彼らの運命を180度変えることになった場所で行われている。

サイモンがこの作品で問題にするのは、捜査上で使われる写真というものの存在と、それが人の思考と記憶に与える影響だ。犯人特定において目撃者が頼りにするのは、自らの脳にレジスターされた目撃したものの視覚的記憶だが、捜査や裁判の過程で沢山のスケッチや写真を見せられるにつれて、彼らの記憶は無意識のレベルで次第に変わっていく。真実を写し出すとされる写真が引き金となって起きる取り返しのつかない結果、それをサイモンは指摘している。

「The Innocents」はNew York Times Magazine社からの依頼のもと、DNA判定によって無罪となった死刑囚をドキュメンタリーするプロジェクトとして始まった。依頼を受けたサイモンは、NYのイェシバ大学ベンジャミン・N・カルドゾ・ロースクールで1992年に結成され、これまでに138人の救済実績を持つ冤罪問題に取り組む団体「Innocence Project」に連絡を取り、彼らと密にコンタクトを取りながらこのプロジェクトに挑んだ。

写真が訴える真実性に疑問を投げかける作品や美術展は、現在ヘイワードギャラリーで開催中の「About Face」展をはじめ履いて捨てるほどある。が、その現実世界における意味をこれほど如実に語っている作品は珍しいのではないだろうか。


Taryn Simon
"The Innocents"
040611 - 040731
Gagosian

 


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