Inka Essenhigh, Shopping, 2005


今回で三度目となるヴィクトリア・ミロでの展示では、インカ・エッセンハイのトレードマークとも言えたエナメル塗料が鳴りを潜めた。そして、ディズニーのグロテスク版のような平面的スタイルに変化があり、油絵の具という伝統的なメディアを力に、空間の広がりが加わった。キャンバス上の対象物の明確化はエッセンハイの狙い通り、ストーリー性に拍車をかけ、また、油絵の具のもたらした埃っぽさはストーリー性の深み、そこに描かれた人物や対象の醜さと相まって、物語に生活臭、親密感を植え付けた。

だだっ広いスーパーマーケットを描いた「Shopping」には、その変化が色濃くうかがえる。以前画面を支配していたなめらかな線に縁取られた形状の子気味よさは、丸いステーキ肉を品定めしている中央の女性のジャージのラインのみに留められた。代わりに、人や物体は陰影によって奇妙に形作られ、床は色彩のトーンによって光を反射させ、奥行きを感じさせる。そして、そういった対象物の明確化は、想像力を刺激し、鑑賞者を絵に一歩近づける。想像力を得て近づいたことで気付くこの作品の持つ不思議な現実感は、描かれている人物の不完全な姿によりいっそう強められている。「アトキンス・ダイエットって食費がかさむわ」といった呟きのような生活臭だ。


Inka Essenhigh, Bullies, 2005

他の5点は、「Shopping」と比べてディフォルメの影響が強い。「Brand New Camel」と「Bullies」は陰影がはっきりしていて、立体感がどっしりとある。残りの3作品は以前の作品のグラフィック的なところを残しつつ、3次元的なアプローチへ移行した感じだ。制作年以上の情報は公開されてはいないが、仮に「Shopping」を最新作と考えると、この一年あまりの間にエッセンハイが導入した変化の段階が見て取れる様な構成となっている。

以前のエッセンハイのエナメル塗料による作品は造形という点でかなり完成度の高い作品であり、そこを出発点としたメディアの交換に伴った要約作業を、段階ごとに追えるのは大変興味深い。アーティストとしてのキャリアをこれから始めようとする為のなりふりをかまわない試行錯誤ではなく、一度「辿り着いた」アーティストが、創作の欲求を満たす為に行う高度な試行錯誤が形として見える、レアな展示と言えるのではないだろうか。


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Inka Essenhigh
050427- 050528
Victoria Miro Gallery


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