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今年のターナー賞は、「これが本当に英国美術の最先端か!」と感心するくらいパンチに欠けている。トレイシー・エミンの「ベッド」のようなパンクさもなければ、マーティン・クリードの「電気」のような負の反抗心もない。選出者にバラエティーとバランスはあるものの、気のぬけた辛子のような展示を前に、賞の存続という言葉が脳裏をかすめる。
候補者四名中、ターナー賞の伝統である「妙」な部分を引き継いでいるのがサイモン・スターリングで、展示室にはオンボロな小屋がまるごと一軒展示されている。この小屋、どこから見てもただのつまらない小屋だが、実はいわくつきの代物。ライン川河畔にあった小屋を作家が一旦解体して、ボートに組立て直した後、それに残った材木を積んでライン川を下り、バーゼルの美術館まで運んで、そこで再び小屋に組立て直して展示したという素晴らしい遍歴を持つ。


Simon
Sterling
上)Shedboatshed (Mobile Architecture No.2), 2005,
Mixed
Media
Photo: Toyoko Ito
下)Tabernas
Desert Run, 2004,
Fuel cell powered bicycle, watercolor and Perspex
vitrine
Glasgow City Council (Museums), Gallery of Modern Art, bought with
the asistance of the National Art Collections Fund
資源再利用もここまで来るとまるで道化だが、その点は、スターリングの別の展示品、「Tabernas
Desert Run」についても言える。酸素と水素を燃料とするこの電気自転車は、作家がスペインのタベルナス砂漠を横断するのに実際に使われたものらしいが、廃棄物は水のみという超エコな自転車。しかもその水は水彩画を描くのに再利用されたというから、作家のグリーン意識も大したものだ。
このようにスターリングの作品はみな地球にとても優しいのだが、一般客にはかなり冷たい。制作過程という「裏話」がすべての作品は、展示物を見だけでは何もわからない。キュレーターが書いた20行程の解説で足らず彼自身が書いた60行程の解説文を読んではじめて上で書いたようなことがわかる。時にコンセプチュアルアートなどと美化されて呼ばれるこの「裏話」も、伝達手段としてここまで活字に頼られると、展示物と解説、一体どちらが作品なのだろうと考えてしまう。


Jim
Lambie, The Kinks, 2003
Mixed media installation
Photo: Toyoko Ito
一方、その対極にあるのが、考えるよりは感じて欲しい、「知的な反応よりも感覚的な喜びを重視」と解説文に書かれたジム・ランビーの作品。英国のバンド、ザ・キンクスへのオマージュでもある今回のインスタレーションは、スーパー・オップな世界。白、黒、銀のビニールテープが敷き詰められた床に、鳥をモチーフにしたカラフルな彫刻が置かれ、目がくらむほどキッチュだ。つまりは、ロックを聴くように体全身で色と物と空間を感じて欲しいという作品なのだが、少々残念に思うのが、ジャンクに美を吹き込むというランビーの魅力がいまいち伝わってこないこと。彼の定番アイテムであるボタン、靴、ベルト、ドアなどのお粗末品が姿を見せていないのも残念だ。


Gillian Carnegie
上)Red,
2004
Oil on board
Cranford Collection, London
下)Section,
2004
Dil of canvas
Private Collection
正統派のアート、ゆえにターナー賞では異色、ゆえに目立っているのが絵画一筋のジリアン・カーネギーだ。風景画、静物画、人物画、肖像画と具象絵画をすべて網羅する彼女は、若手ながらも、表現主義からフォトリアリズムまで幅の広い筆遣いで知られる。それゆえか、主題よりはそれをどう描くかに焦点がおかれ、同じモチーフを構図、色彩、筆遣いを変えて何度も描くことでも知られている。その代表作が、"bum paintings(ケツ画)"と呼ばれる、自分のお尻を描いた一連の油彩。カーネギーは、このように卓越した技術を持つ上に、画家がターナー賞候補に上がったのは5年振りという背景が重なり、一部の層で強い支持を受けているようだが、個人的には隔たりを感じる。スタジオの中だけでの現実、美術の中だけでの重要事項といった距離を感じてしまう。

Darren Almond, If I Had You, 2003
Four-screen video installation
Courtesy
the artist, Jay Jopling/White Cube (London), Matthew Marks Gallery, New York
and Galerie Max-Hetzler, Berlin
最後は、映像4点を用いたインスタレーションを発表しているダレン・アーモンド。時間と記憶をテーマに制作する彼らしく、今回は自分の祖母を対象に、彼女のハネムーンの場所に一緒に戻って撮った映像を発表している。ピアノの旋律に乗って優雅にダンスする若いカップル(足元しか見えないが)。それを懐かしいとも哀しいともいえる表情をしながら見つめる祖母(夫を20年前になくしている)。その横には舞台の大道具を思わせるように何となく置かれた風車と噴水の映像。モチーフとスタイルの異なる映像の対峙によって生れる時間と空間の開き。叙情的でロマンチックともいえるテーマ。そこに魅力を感じなくもないが、やはり何かが欠けているような気がする。
Turner
Prize 2005
051018-050122
Tate Britain, London![]()
ターナー賞関連の過去の記事
Turner
Prize 2004+ジェレミー・デラー受賞
Turner
Prize 2003+グレイソン・ペリー受賞
Turner
Prize 2002+キース・タイソン受賞
Turner
Prize 2001+マーティン・クリード受賞