

Uls Fischer, Uh..., 2007
文・写真:伊東豊子(Toyoko Ito)
最近は壁よりも床の方が流行のようで、テート・モダンの「亀裂」の次はセイディ・コールズの「墓穴」だ。ヴェネツイア・ビエンナーレのスイス館オフサイトでも大活躍したウルス・フィッシャーが、また見事なペテン師振りを披露してくれた。
会場となったのは、この秋に二店舗目となるスペースをメイフェアにオープンした画商セイディ・コールズが、その近くに所有する作品収蔵用の建物の中。搬入用エレベーターの鉄柵を横目で眺めながらホールに入ると、こともあろうかビルの床が派手に掘り起こされている。その異様な光景に面食らって、「この穴が作品なんですか」とおそるおそる係員に尋ねてみると、「そうです」と答えが返ってくる。「そこからだとよく見えないんじゃありませんか。土の上を歩いても大丈夫ですよ。下の階にも作品がありますから後で寄ってみてくださいね」とさらに続ける。
ではお言葉に甘えてと土の上に乗って、穴の中を拝ませてもらったが、今思うと本来ならばここで何かが変だと気づくべきだった。たとえば、土の上を歩いているのに足がのめりこまないとか、床の下がいきなり泥の層になっていて土台がないとか、下に展示室があるんだったらこんな風に掘れるはずがないとか……。だが、そこがウルス・フィッシャーが美術界のシャーマンと呼ばれる所以で、そのペテン術にまんまと引っかかってしまった。どこかが変だと感じる前に、こんな場所によく穴を掘ったものだと感心してしまったのだ。よって、地下に行こうと階段を降りるまで、そのからくりに気がつかなかった。

Uls Fischer, Uh..., 2007
もうおわかりの通り、こちらは本物のように見えて実はすべて作り物。建物の床に穴を開けたことだけは確かなようだが、土の部分はぜんぶ嘘っぱち。アルミニウムで模った「彫刻」に色をつけたものを、床の穴に埋め込んだのだという。わざわざ上海まで行って、アルミニウムを3トン分も買ってこんなものを作るとはまったくご苦労なことだが、ここまで痛快で奇想天外な作品も珍しい。また、ここまで人を上手くだます作家も稀だ。そのうえに、これも嘘かホントか係員さん曰く500,000ポンド(約1億1千万)もするという。今思うと、見たもの聞いたことすべてが不思議な展示であった。
Uls
Fischer
Uh...
Sadie
Coles, 09
Balfour Mewsにて
11月17日まで公開された